第178話 目撃者

「きみたちまた・・二人で」

 俺と寄白さんが校長室をあとにして廊下を歩きはじめたときだった、背後から誰かの声がした。

 その声はどう考えても俺らの背中に向かって放たれたものだ。

 聞き覚えがあるっちゃあるが、そこまで親しくもないやつの声。

 誰だっけ?

 俺たちは、後方へと向き直す。

 声をかけてきたのは山田だった。

 けどまた・・ってのはなんのことだ?

 山田は振り返った俺と寄白さんを、冷ややかに見てる。

 「この前も二人で保健室にいただろ?」

 な、なにぃ!!

 あ、あ、あれを、や、山田に見られてたのか。

 や、やばい。

 ――僕は山田。この学校の重要人物だ、覚えておくといい!!――

 確か七不思議制作委員会のときにそんなこと言ってたな。

 重要人物ってただのストーカーかよ、なんて粘着な男だ。

 あのときは細心の注意を払って保健室に出入りしたのに……このままじゃ変態と保健室の怪しい男のダブルライセンスゲットだ。

 なんとかしなければ、いや、待てよ、なんで俺がそんなに慌てないといけないんだ?

 俺はなにも悪いことはしてない。

 あれは治療、れっきとしたアイシングだ。

 寄白さんに体の半分はアイシングされたけど、それでも打撲の治療。

 あれで腰はずいぶんと楽になった、俺自身がそれを証明できる。

 と思ってると、寄白さんは山田になにかを手渡そうとしてた。

 あれはなんだ?

 なにかの口止めか。

 寄白さんはA四の紙を四分の一くらいにした紙切れを山田の制服の胸ポケットにササっと押し込んだ。

 その紙は学校のプリントで使われるようなザラザラの安っぽい材質だ。

 ゴミの分別でいうなら雑紙ざつがみのたぐい。

 あれにそんな価値があるのか。

 現金ってわけじゃないし、あれで口止めができるのか?

 やはり寄白さんも山田をおとなしくさせたいらしい。

 俺と一緒に保健室にいたなんて知れ渡ると、寄白さん自身もジ・エンドだからな。

 そっか、そうだよな~俺と二人で保健室はさすがにヤバイよな。

 「お便りをお渡ししました」

 寄白さんはクルっと俺のほうを向いてこっちに歩いてきた。

 山田は上機嫌で俺たちとは反対方向にスキップして行った、山田があんなに喜んでる……。

 あそこまで歓喜する紙って、寄白さんいったいなにを渡したんだ?

 山田はまるで俺らが最初から居なかったようなはしゃぎっぷりだ。

 その後ろ姿は SSRスペシャルスーパーレアでも当てたような喜びようだった。

 ときどき見かけるスキップが苦手な人のように、変な動きのまま廊下の突き当たりを曲ってった。

 なんであの動きができるんだ、どう見ても右足と左足が交互にでてない。

 「えっと、お、お便り?」

 俺が寄白さんに訊き返すと、黙ってうなずいた。

 お便りっていうことは、手紙? あるいはなにか重要なことが書かれたメモとか?

 寄白さんは両手を制服のポケットに入れて、なにやらモゾモゾさせてる。

 そのたびにホームベースを逆さまにのしたような制服のポケットが膨らんだり縮んだりした。

 プラスチックに爪が当たるようなカチカチという微かな音もする。

 「はい。そうでしてよ」

 「そ、そう」

 寄白さんのポケットのなかでなにが起こってるのか。

 けどあれに似た動きをどこかで見たことがあるような、あっ、近衛さんがスマホを直置きして文字を打ってた動き。

 文字の配列なんかがすでに頭に入ってるんだろうなって思ったんだよな。

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 二校の生徒玄関。

 社は自分の靴を下駄箱にそっと入れた。

 「ほら。エネミーかして」

 社が首を傾げたさきでエネミーは自分のローファーを胸の高さにまで持ち上げていた。

 両方の靴をピッタリとくっつけたそれは、まるで手土産のようだ。

 「お願いアルよ」

 エネミーは自分の靴を手渡すと、社はそれを下駄箱に入れてからエネミーの上履きを玄関マットに優しく置いた。

 しゃがんだ社はエネミーが履きやすいように靴の向きを調整している。

 そのやりとりは、やはり姉妹のようだった。

 「ひとりで履ける?」

 「当たり前アルよ」

 「そう。エネミーまた夜更かししたの? 目が充血してるんだけど」

 社はサッと立ちあがる。

 「ワンクールをいっき観してやったアルよ」

 「ほんとアニメ好きね。それってなん時間?」

 「本編は24分でそれが12話だから。3時間12分アルな」

 (えっ?! と、ときを超越した。24分かける12話は288分。ってことは4時間48分よね。エネミー計算が適当……)

 社も自分の上履きをマットの上にポンと置いたときに制服のなかでスマホが震えた。

 「……誰だろ?」

 社はすぐにスマホを掲げる。

 (えっ?)

 【山田が動きだしたかもしれない。 雛が転校する前の唯一のやり残し。どうする? 寄白美子】

 (乗りかかった船。必ずつきとめる)

 エネミーは社の険しい表情に気づくことなく、いまだ自分の上履きと格闘している。

 爪先を靴のなかに突っ込むが、靴自体がずれてグラグラと動く。

 「今日はみんなでパフェアルな~」

 「そうね」

 (山田の周辺を動いてるのは間違いない。あれ・・が)

 「雛。なに味食べるアルか?」

 「それはメニュー表見てから決めるわよ」

 「そうアルか」

 しゃがみ込んでいたエネミーは立ち上がると爪先をコンコンと床に打ち付けた。

 「エネミーはなに味頼むの?」

 「うちはストロベリーとチョコとフルーツと抹茶とキャメルとそれと、それと、う~んと、あとは」

 「エネミー食べすぎ。それじゃあお腹痛くなっちゃうからひとつにしないと」

 「えーやだアルよ!!」

 「じゃあ、私と美子のぶんもシェアすれば。たくさんの味を食べられるでしょ」

 「それならいいアルよ。九久津はくるアルか?」

 「えっ、き、きっとこないわよ」

 社は声をうわずらせながらスマホをポケットに仕舞うと、エネミーに視線を向けたまま指先を動かす。

 【わかったわ。私が必ず捕らえる。あの黒い藁人形はどうなったの? 社雛】

 「そうアルか。沙田と九久津の違う味を食べたかったアルよ」

 「ええ。だ、だって、九久津くんはまだ入院してるんだし」

 (え、エネミー。パフェの味違い目的で九久津くんと沙田くんを頭数に入れるなんて)

 「でもわからないアルよ。内緒でくるかもしれないアル」

 エネミーはようやく上靴を履き終えた。

 「こないったらこないわよ」

 【あれからまったく姿を見ない。私は雛のサポートに回る。なるべく山田をマークしておく。 寄白美子】

 【じゃあそれも含めて今日の放課後。エネミーはまるで遠足のようにパフェを楽しみにしてるから 社雛】

 【りょ。 寄白美子】

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