第177話 「夢魔」と「悪魔」と「ラプラス」

 

 「そうよね」

 「とろこでラプラス、ラプラスって言ってますけどアレってなんなんですか? アヤカシですか? それにどうして九久津が夢魔を憑依させることで、僕のなかにラプラスがいるとわかったんですか?」

 「ああ、それについてはね。えっと、まず夢魔によってラプラス判定できる理由から話すわね?」

 「はい」

 「アヤカシの起源を読んだならわかると思うけど。人が悪魔とは関わらないことは常識。ゆえに召喚憑依の能力者は悪魔と契約してはいけない。これが絶対条件ね」

 「はい。それはわかります」

 「でね夢魔ってのは魔属性・・・ではあるけど悪魔じゃないの」

 「それ九久津も言ってました。――サキュバスとインキュバスが完全な悪魔。って」

 「そう、その通り。結局それって文化圏の問題なのよ」

 「えっ、っと言うのは」

 「もすごく分かり易く言うと、英語は世界の公用語。英語圏でサキュバスとインキュバスの名前をだせば通じるけど、”ム””マ”と発音しても通じないってこと」

 あっ、ああ~?! それっぽいこともアヤカシの起源に書いてあったな。

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 ――四、想像力と創造力の相乗効果。

 例として日本ではコックリさん(キツネ憑き)。

 その正体は、きつねいぬたぬきを当て字にした動物霊だという説や、ただ単に瓶のふたの動く音が――コックリ。と聞こえたからという説などがある。

 海外に目をむけると欧米の悪魔憑きがある。

 このことからも上記の現象は、それぞれの文化と対象者の生活圏に密接な関係があり、やはり、概念=人の思念がもたらす結果だと言える。

 昨今の海外事例ではスレンダーマンが顕著である。

 スレンダーマンについては、作者が創作した事実を認めたにもかかわらず体躯を得て、体現してしまった例だ。

 強力なミームは近い将来、絶大な脅威になりえるだろう。――

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 要するに、アメリカやイギリスなんかで夢魔むまの名前をだしても通じないってことだ。

 ということは夢魔の存在ってのは日本、あるいはアジア圏、特有のアヤカシって括りになるのか。

 属性的には「魔」を帯びてるけど、悪魔じゃないアヤカシ。

 そういや昨日、魔障でも睡魔すいまってのも聞いたな。

 校長の声がなめらかにつづく。

 「欧米はアルファベットの羅列だから御名隠しはないって話したことがあったけど、英語圏と日本ではまったく影響力が違うのよね」

 「あの。夢魔って魔障にもありますか?」

 「うん。夢にうなされるような魔障のことをそう呼んだりする。それが語源だったはずよ。悪夢も同じような意味だし。むかしの人はその症状から魔物を想像したり、逆に魔物によってその症状がもたらされてると考えていたからね。だから魔属性のアヤカシと魔障には表裏一体のモノもあるの。まあ、それも文化圏によって強弱の違いはあるけどね」

 「やっぱり!! じゃあ睡魔って魔属性のアヤカシもいますか?」

 「うん、いるわよ。それこそ悪魔じゃなく魔属性のアヤカシ・・・・・・・。だから九久津くんなら召喚憑依として使えるわ。睡魔は召喚憑依させると相手を眠らせることができる。同じ眠りの能力だと”枕返まくらがえし”かな」

 「へー」

 そうだよな。

 九久津が悪魔を召喚するわけねーか。

 アイツはそんな禁忌を破るやつじゃない俺は、俺。

 ……ん……?

 俺、って誰?

 いや俺か……俺はそれを知ってる。

 ずっとからあいつのことを。

 ずっと前っていつのことだ? 九久津の小さい頃だ。

 小さいってなんだ。

 なんで俺はそんなことを。

 なんだ?

 あっ、あれか同級生だからむかし出合ってたのかもしれない、たとえば町中ですれ違ってるとか、か。

 でも、なんか記憶が……。

 九久津も最初はカマイタチ下手だったんだな。

 やっぱり、なんか変だ。

 記憶が混在してる、ラプラスの影響か?

 そういえばバスのなかでもこんな感覚になったことがあった、確か【ナスのヨナナス味 カプセルグミ~砂肝すなぎもエキス入り~】のときだ、九久津からあの変なグミをもらったとき……。

 あっ、あれか?

 九久津の過去を知ってるから、たまたま感傷的になっただけか。

 「それでどうして夢魔はラプラスのことを」

 「ラプラスとは正式には”ラプラスの悪魔”なんて呼ばれてるの」

 「へーじゃあ。ラプラスも魔属性のアヤカシってことですか?」

 「いいえ」

 校長はゆっくり首を振った。

 「夢魔がラプラス判定をだせたのは古文書にそのやりかたが書いてあったから。そこは理解できるわよね?」

 「はい」

 「ただラプラスは万国共通のモノ・・なの」

 「世界中で通じるってことですか。じゃあ、あれはなんなんですか?」

 「概念擬人化がいねんぎじんか。と呼ばれる存在」

 「概念擬人化がいねんぎじんか?」

 「そう。つまり概念というものが肉体を持つようになったモノ。いや肉体なのかどうかはわからないけれど。それに存在してるのかどうかもわからない。別名、意志を持つ概念」

 「概念が意志を?」

 「そう。ラプラスとは【因果律】の概念擬人化がいねんぎじんかのこと。それも古文書に書かれていた」

 概念が意志を持って個体になるってことか。

 概念……”Conceptンセプト、そんな存在がいたんだ。

 概念って例えばほかになにがある。

 そうだな【空間掌握者ディメンション・シージャー】の【空間】ってのは概念だよな。

 あと、パッと思い浮かんだのは【気象】とか【治癒】とかかな……?

 校長がすこし疲れた感じで眉間を揉んだ、そしてそのまま体をリラックスさせるように椅子の位置をすこし横に回転させたときだった。

 ――ギシ。っと鳴った背もたれの横になにかがある、大きな影が揺れた。

 ……ん?

 ……えっ?

 ……おっ?!  あるじゃなくて居る。

 緩やかなカーブの触角が一本ピョンとはみでてた。

 校長の椅子がまたすこしずれると、それに合わせてツインテールの片側が見えた、同時に揺れる黒い十字架のイヤリングも一緒に。

 ええと、ええと、うわっ、うわっ、目、目が合った。ほ、星がはっきりしてる。

 防御力は完璧だって思ってる場合じゃねーな。

 あっ、また目が合った。

 合ってしまった。

 昨日ドタキャンしたのに椅子の後ろでなにしてんだか。

 まさかドタキャンして、わざわざここに隠れてたわけじゃな……い……よな。

 それはいいとして、なぜ椅子の裏に。

 カーテンの裏に隠れて見つからないと思ってる子供と一緒だ。

 俺と視線がぶつかると、寄白さんはまたじょじょに椅子の陰に隠れる仕草を見せた。

 上手く顔を隠したと思ってるようだけど、おもいっきり髪がでてるんだよな~。

 特徴的な触角とツインテールに黒い十字架のイヤリング。

 それに星の眼はどっからどう見ても寄白さんだ。

 おお!! またじょじょに見せはじめた。

 俺が転入した初日、寄白さんは俺の机の下から浮上してきた、今日は椅子の横から俺をチラ見してる。

 ま、また目が合ったぞ、これどうしようか?

 校長はなにも言わずに、女子力高めデザインの目薬指してるし。

 疲れ目ですか~。

 あれだけ書類に集中してたら……って思ってる場合じゃない。

「ラプラス?」

 寄白さんは椅子の裏に隠れたままで首をかしげた。

 な、なにを言いはじめるのか、寄白さんがラプラスを知らないなんてことはないだろう。

 けど九久津が言ってたっけ、寄白さんってなんだか勘違いしてる常識ことがあるって。

 古文書でも三家によって知らない情報がある……どことなく共通点が。

 「あら。美子やっとでてきたの?」

 校長は目薬を目に馴染ませるように二、三度目をしばたたかせてから、すこし腰を浮かせ車の後部座席を見るように振り返った。

 寄白さんが椅子の後ろに隠れてるなら、最初から言ってくださいよ~。

 寄白さんはまるで横ミーアキャットのように顔をだして校長を見上げた。

 「はい。お姉様」

 「それより、もうこんな時間ね」

 校長は振り向いたついでに壁の立体インデックスを眺めてから、また椅子に腰かけ、いつもしてるシャンパンゴールドの腕時計で現在の時間を確認した。

 「ああ~もうこんな時間か。二人とも時間があったら昼休みにもう一回校長室にきて。話そびれたこともあるし。いい?」

 「あっ、はい。わかりました。僕は大丈夫です」

 「よろしくてよ」

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