第176話 自分

そう。

 俺はもう、ふうつじゃない、でもそれでいい。

 俺に与えらた力とは、そういうことだ。

 これが独りなら、耐えられなかったかもしれないけど、寄白さんも九久津も社さんもいる。

 俺よりもっと早くからアヤカシと戦ってる先輩だ。

 みんなを友達と呼べばいいのか、仲間と呼べばいいのかわからないけど、とにかく同じ時代を生きてる。

 まあ、エネミーもたしておくか、きっと仲間外れにするなって騒ぐだろうし。

 寄白さんだって、はるかむかしからその力を受け継いで、ずっと戦ってるんだ。

 ラプラスの言ってた――オマエは沙田雅。真名は運命雅さだめみやび。そこにおわす御方は依代妃御子殿。そなたは妃御子殿に従え。――

 ってのも気になるっちゃ気になる……ただ真名を口にするなってのは、いま目の前にいる校長が言ってたことだし。

 どのみちその辺りに俺のルーツがあるんだろうと思う、そこまで遡れば俺のなかにラプラスがいた理由もわかるかもしれない。

 ファーストルーツ……信託継承か。

 寄白さんがオッドアイなのも真名に関係あるのか?

 ただ隠さなければならないのは、狙われるからなんだよな。

 校長の言ってた。――むかしは名前の、漢字と字画を利用し呪術を施したのよ。そのために、本名つまり真名を持つ者はそれを隠す習わしができた。――

 つまりはそういう理論だ。

 ウィークポイントは狙われるから隠さなければならない。

 御名隠しについては真名を隠すことが必須条件、それが明るみになれば呪いをかけられる。

 俺は昨日これに近いものを見た。

 そうあの魔障だ、ワンシーズンのアスって娘がなったき。

 看護師さんの言葉を思いだす。

 ――さっきの病み憑きの原因は呪詛性。たぶんアスちゃんの周囲に病み憑きの呪詛を与えた人物がいるじゃないか? という先生の診断です。しかも病み憑き以外にも、いぜんから呪詛をかけられている痕跡も見つかりました。――

 長い歴史のなかで呪いは、負の遺産として脈々と受け継がれてる。

 呪いがなくならないのは誰かを怨み苦しめるため……まさかあんな女子だけの集まりにそれがあるとは……いや、だから・・・か。

 あんな華やかな場所だから、誰かを引きずり降ろしてでも自分が上に行く、そうじゃなきゃやってけないか。

 でもアイドルのゴールはどこにあるんだ?

 六角市の出身のミアって娘も気になるな。

 ふと校長に視線を移すと、俺を見てた。

 あっ、俺の言葉を待ってるのか。

 「――ラプラスを秘めてる。ですか?」

 「良かった。なんだか物凄く考えごとをしてたようだったから。心がどこかへ行っちゃったみたいに」

 「えっ、えっと、ま、まあ、いろいろ考えてました」

 「ただ古文書を見せてはいけないけど中身を会話でするのはOKなのよ。結局は三家の中身をみんな知ってるってことなのよね」

 「会話してもいいなら直接、古文書を見せ合えないというルールの意味がないんじゃ……な」

 な、なにかが心に引っかかる、なんだ?

 そうすることで、できることとできないこと……?

 話してもいいけど見せ合うのはダメ、どっちも同じようだけど、違う点が……あっ?!

 「でも、校長」

 「なに?」

 「仮に古文書の中身がほぼ同じで、三家それぞれにひとつだけ相違点があったなら、それを意図的に言わないこともできるんじゃないですか?」

 「えっ。お、おー!! そうね~。そう言われればそうね。なるほど~」

(沙田くんって、ときどき大人びた考えと発言をするのよね。そこまで難しい言葉ってわけでもないし高校生が知ってても不思議じゃない言葉ではあるけど。だから私はどこか頼ってしまう)

 今度は俺の言葉で校長がなにかを考えはじめた。

 ひとりで、コクコクとうなずいてる。

 視点は机に向けられたままで、印紙の貼られた書類を凝視してた。

 たぶん書類を見てるわけじゃなく、考えごとをしてるからその角度にある物を見つめてるんだ。

 (それはツヴァイを発現させるからだけじゃない。どこかに見え隠れする安心感。それこそが沙田くんのルーツの鍵なのかな? ただ沙田くんの先祖にはそれらしい痕跡がないのよね。ガシャドクロの話も気になるし。沙田くんのご先祖様……。そっかガシャドクロの出現率を調べればいいのか、ただ近年の概念だから出現率は低いはずよね。沙田くんの能力は【自己模倣者セルフ・デュプリケーター】つまりはドッペルゲンガー使いのはず……)

 「ただなんとなく思っただけです」

 俺がそう言うと、校長はまるでビックリ箱でも開いたようにハッとした表情で俺を見た、そして咳払いをひとつした。

 「そう。でも私たちがそんなことする必要ってある? 三家で中身を隠してなにか意味があるの?」

 (けど、逆説的に考えて三家が待ち侘びていた能力者が沙田くんなら、いやほぼ間違いなく沙田くんなんだけど。ラプラスがその証拠……それほどの能力者ならルーツなんて明かさないわよね)

 「隠さなきゃいけないことが書いてるとか」

 「なにそれ?」

 「御名隠しの真名のように」

 「なるほど。確かに沙田くんの言う通りだわ。考えもしなかった。って言っても私たち三家は上手くやってるからそれはないと思うわ」

 (そう。こういう鋭い思考も……まるで九久津くんのような……ううん。堂流のような)

 「ですよね」

 そうだよな、その三家が上手くバランスをとって六角市をまとめてくれてるんだから。

 「あの、それよりどうして僕がその古文書の人物だと思ったんですか?」

 「最初は鵺を倒したあの日になんとなく気づいた。完全にそう思ったのは死者との戦闘でラプラスが出現したこと」

 俺はそのことをただ思ったわけじゃない。

 転入した日に九久津が夢魔を召喚憑依させてたからだ、その九久津が俺を見て――ラプラス――って言った。

 「九久津くんが夢魔を憑依させたときにラプラスの存在を認めた者は三家の待ち人・・・として迎えることになってるの。私と堂流が六歳の沙田くんを見つけたときに目ぼしい人物だとは思ってた、でも六歳ではまだ早すぎるから。しばらく時間を置くことにした。目処めどとしては、高校生くらいまで待とうってね」

「僕はそのことを覚えてないんですよね。鵺を倒したのは無意識のツヴァイですし」

 やっぱり俺の能力の根源は……園児かそれより前にあるのか。

 さらにその前ってことは、赤ちゃん……いや、もしかすると、もっと前か、そうなると……。

 これも只野先生に聞いたことだ、ただこれは一般知識ではなく、魔障医学の分野だよな。

 魂の正体、星間エーテル……転生……ミッシングリンカーか。

 俺はいったいどこからやってきた……。




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