第175話 覚醒の理由

開放能力オープンアビリティ夜目よめだって、俺は知らないうちに使ってたんだ。

 だから寄白さんも九久津も<俺が使ってたことそれ>に気づいてたはずだ、なんせあの四階くらやみをふつうに動いてたんだし。

 あのとき俺は

 ――でも不思議と暗闇のなかでもすべての風景がわかるし、色まで鮮明に認識できた。

 確かに闇にまぎれてるはずなのに壁の色も白だとわかる。

 夜の野外で景色を見る感覚だ、でも本当なら色までは認識できないよな~?――

 って思った。

 俺自身それを不思議に思う自覚はあったってことだ、ふつうとは違う感覚だと気づいてた。

 四階ではじめて開放能力オープンアビリティを使ったのか、それとも、もっと前から使ってたのかはわからない。

 なんたって意識的に使ったわけじゃなくて、無意識に使ってたんだから。

 俺は一校転入前までは、なんの変哲もないただの高校生だった。

 初日のバスを待ってるあいだにツヴァイが出現してたみたく、自分の意思とは無関係に能力を使ってた可能性もある、いや、その可能性のほうが高い。

 それさえも能力者として開花するための慣らしだったのかもしれないけど。

 俺が開放能力オープンアビリティを使いこなしてるとわかれば、寄白さんと九久津はその知識を、俺に教える必要はないと判断するだろう。

 知ってることをもう一回、教えるなんて二度手間になる、使いこなしてる能力なんだから。

 当然、校長にその話は伝わらないから俺に教えることもない……よく考えれば単純だ。

 きっとそんなふうな経緯いきさつですれ違っただけなんだろうな。

 みんなが俺のなかにいるラプラスを待ってたのはなんでだ?

 鵺を倒したのはツヴァイだったわけだし、だとしたらラプラスはツヴァイ以上の力を待ってるってことか?

 ……いや、ラプラスの出現こそが・・・、能力覚醒の合図だったのかもしれない……。

 そうだ、間違いない。

 ――さだわらし……沙田……いったい、いつになったら本気だすんだよ?――

 寄白さんの言ってた本気・・とはつまり俺の能力の覚醒を示してたんだ。

 死者の反乱でツヴァイが出現してから、そんなに時間は経ってないけど、いまはそこそこ意図してツヴァイドライ使えるようになってきた。

 特異体質が消えて、大きく体調が変化したのも死者のときだ、あの日が分岐点だったわけか。

 只野先生と――なるほど。大きな転機で体質が変わることはよくあるから。じゃあ特異体質の消失と引き換えで【啓示する涙】が悪化したのかもしれないね? 沙田くんの、特異体質って生まれつきだったの?――って会話があった。

 間違いない、あのときが本格的な覚醒の第一歩だ。

 ……覚醒? ……開放?

 頭のなかあの声、それにラプラスの声、そしてドライ……なんとなく、なにかが解き放たれような感じはある。

 てかラプラス自体にもなにか特殊な力があるのか?

 ちょっと時系列に並べてみるか、俺は十年前、俺の知らないところでツヴァイを出現させてた、それが鵺を倒したとされてる。

 けれど俺にその記憶はない、ただ大きな恐竜に出合って浮かれてたってのは、なんとなく覚えてる。

 あれは、一面の青空に南町の雨を見てたような状態だろう。

 勝手に出現して勝手に動いてた、俺にその意識はないけど。

 只野先生との話から考えると、このときにはもう【啓示する涙クリストファー・ラルム】にはかかってたっぽいんだよな、赤い涙を流した記憶はないけど、特異体質になったのはその日からのような気がする。

 あっ?! 特異体質と【啓示する涙クリストファー・ラルム】の接点が見つかった。

 もしかすると、あの日、俺は特異体質も【啓示する涙クリストファー・ラルム】も同時発症したのかもしれない、発症というより体に取り込んだ……?

 俺の体を100の入れ物として、特異体質と【啓示する涙クリストファー・ラルム】を同時に取り込んだ場合で考えるとする。

 特異体質に50【啓示する涙クリストファー・ラルム】に50をそれぞれ使う。

 死者との戦いで特異体質が消える、つまり100のうち50の【空きから】ができる。

 俺は、もう一度、只野先生の言葉を思い返す。

 ――特異体質の消失と引き換えで【啓示する涙】が悪化。

 そうなれば50の【空きから】部分に【啓示する涙クリストファー・ラルム】が入ってくる、これが悪化という表現だ。

 やがて俺の100は【啓示する涙クリストファー・ラルム】になる。

 これが十年前【啓示する涙クリストファー・ラルム】に罹ってたけど、いまになって赤い涙を流すようになった理由だ。

 ……鵺のとき……あっ、あの声の人って。

 鵺のとき……、い、いや違うか、記憶が曖昧だな、どことなく。

 待てよ。

 仮に鵺と戦いの日に初めて【啓示する涙クリストファー・ラルム】にはかかったとすれば、その日、俺のなかにソレ・・が入ってきたってことか……?

 あるいはソレが入ってきたことによって、俺は特異体質と【啓示する涙クリストファー・ラルム】にかかった。

 う~ん、わかんねー。

 そもそも、あの恐竜のとき、いや鵺が出現した日、傷だらけの人が家に送ってくれたんだよな。

 そこは覚えてるんだよ、結局あの人って誰だったんだろう?

 家に送ってくれたんだから、その人が俺のなかに入ってきた【啓示する涙クリストファー・ラルム】のソレにはならないだろうし。

 ――『時がきたら君の力を貸してほしい』って声はどことなく九久津に似てた……となると、あの声は【啓示する涙クリストファー・ラルム】のソレとは別か。

 ダメだ、やっぱ、ぜんぜんわかんねー。

 よし、つぎ、それから約十年、俺はなにごともなくふつうの小学生と中学生をやってきた、そのかんすでに寄白さんも、九久津も、社さんもアヤカシとの戦に身を投じてた。

 ただ俺もまったく接点がなかったわけじゃない、社会科見学で、通称山研やまけん、正式名称“YORISHIROヨリシロ LABORATORYラボラトリー”に行ったこともある、もちろんそのときは表入口だけど。

 あとは気づかなかっただけで寄白さんたちとのニアミスはあったはずだ、六角駅の前の繁華街でなら小中学生のときに一回や二回はすれ違ってるだろうな。

 それは前死者の真野絵音未にも言えることなのかもしれない。

 目には見えないけどそう言うすれ違いとか出会いや別れ、それを運命って呼ぶんだ。

 俺たち高校生能力者の運命。

 ――園児のときにドッペルゲンガーと目が合ったあの寒気。

 ――小学生のとき交差点で車が突然消滅したときにも感じた、あれはきっと異次元に消えたんだろう。

 ――中学生のとき、空に光る謎の物体を発見したときにも感じた、あれは完全にUFOだ。

 ――しかも地球侵略型のエイリアンが操縦してたに違いない。

 ――幼いころ水陸両用の翼竜を見たときも、等々……例を挙げればキリがない。

 あっ、俺って園児からの成長過程でちょいちょい、なにかしらの出来事に遭遇してる。

 そして一高に転入してからの、開放能力オープンアビリティの使用。

 時系列に並べればよくわかるけど、俺ってじょじょに、そういう出来事に触れてじょじょに能力が覚醒してる。

 結構スローペースだけど。

 そして死者との戦闘で、ラプラスが出現して完全に開花ってことか。

 そういや”アヤカシとの戦に巻き込まれた”って思いも本心は違うな。

 もの凄く拒絶して一秒でも早く逃げだしたい、一校になんて二度と近づかねー、なんて思ったことはない。

 しょうがないか……。くらいは思ったことはあるけど……。

 どこかでこうなって当たり前というか、なるべくしてなった気がしてる。

 誰かのためになら、俺の能力ちからを役立てたい思う、それは単純に子供が警察になりたいって思うような……これも使命というか、運命というか、俺が絶対にやらなきゃいけないことのような。

 毎日のように不条理と理不尽に人が傷つく、そんな世界、変えらねーかな。

 校長が座ってる椅子の重心がズレて――ギシッ。っときしんだ。

 「寄白家うちと九久津家、真野家には預言じゃないけど、いずれ起こることが書かれた古文書こもんじょがあるのよ」

 「えっと、じゃあ、そこに僕のことが?」

 預言か。

 忌具保管庫にも”預言の書”があったからなんとなく預言って言葉は気になる。

 どのみち、あの預言の書はガラクタだったけど。

 「うん。まあ」

 「僕のなかにラプラスがいることもですか?」

 「えっと、そ、のような――」

 校長の言葉は歯切れ悪くなった。

 「――ものかな。はっきりと沙田くんのことが書いてあるわけじゃないんだけど。これから起こることと言っても”沙田くんらしき人がその力を発揮して行く”……くらいボヤけた内容でね。しかも古文書の文面は三家がぜんぶ同じってわけじゃないらしの。それに三家はそれぞれの家系に古文書を見せてはいけないしきたりもある。ただ沙田くんらしき人がラプラスを秘めているとはっきりと書かれていた」

 へ~そんなしきたりが、そっかその三家って由緒ある家系だもんな。

 現代いまじゃ寄白家は株式会社ヨリシロで大企業だ。

 そういう家系いえには、しきたりとか風習とかいろいろあるんだろうな。

 俺のような一般人と違って……いや、俺も、もはや一般人ではなくなってきたけど。




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