第174話 優しさ

 

バス停で送ったメールに九久津からの返信はない、まあ、まだ朝が早いからと言えばそれまでだけど。

 てか病院だとほぼ電子機器は禁止だろうし……昨日だってエレーベータ―前でようやく社さんから返信がきたくらいだ。

 あのときもなかなか大変だったな~てかエネミーが勝手に動き回るからなんだけど。

 校長は今日も朝早くから校長室でたくさんの書類を広げて仕事をしてる。

 反対に俺は、ふっかふかのソファーに腰をかけ、その様子を見てた。

 校長はPCに文字を打ちながら、ときどき書類になにかを書き、机に備え付けられた判を押す。

 手を動かす校長は腕と口が別々に動いてるようだった、なんせその作業をしながら俺と話してるんだから。

 ついさっきなんて切手を貼って、どっかに手紙でも送るのかと思ってたら――これは収入印紙。と言われた。

 俺はその収入印紙という物の存在を初めて知った。

 税金とかに関係あるものなんだ……俺には一生、縁がなさそうだ。

 書類とか税金とかってめんどくさそう……。

 「沙田くん。けど深刻な魔障じゃなくてよかったわね?」

 「はい。おかげ様で。ただ僕のなかにいるモノとはしばらくは付き合っていくしかないかな~と」

 「話を聞かせてもらった限りそうよね。伝えたいことを伝え終わると完治するんでしょ?」

 「はい。僕を診察てくれた先生はそう言ってました。それに僕自身も僕のなかにいるモノはそんなに悪い感じはしません。むしろ良い感じのような……体にすごく悪影響があるってわけでもないので、まあ、いいかな~って」

 「そっか。意外と前向きね」

 「そ、そうですか?」

 校長に言われてハツっとした。

 それもそうか、なんだかんだ言っても魔障には変わりない。

 ただ、なかのモノってのがそんなに憎めない感じなんだよな~どことなく親近感を覚えるし。

 穏やかつーか、爽やかつーか、それでいてどこか頼れるみたいな。

 「けど、病院に行ったことによって、新しい情報も色々知れました」

 「なんのこと?」

 「例えば、開放能力オープンアビリティとかです」

 「ああ、そっか沙田くん、知らなかったんだっけ?」

 「はい」

 「けど、僕って色々、放置されてる気がするんですけど……そういうような知識とか」

 「そうね~」

 ここで校長の手が止まった。

 「そもそもね。沙田くんが能力者としていずれ六角市に現われることは、ずいぶん前から分かってたことなのよ」

 校長はつづけて吐息のような――そう。を発した。

 それは校長自身に向けられたもののように思えた。

 どこか自分を納得させてるようなニュアンスだったから。

 「えっ、というのは?」

 ……なんだかんだで俺がいちばん俺のことを理解わかってないんだよな。

 俺はふつうに一校に転入してきただけだ、その初日に寄白さんと出逢った。

 それに九久津とも。

 やがて塩を盛られて、気づけば四階に呼びだされて、アヤカシとの戦いに巻き込まれてた……。

 あっ、あの塩って俺を四階に案内するためだよな……あの出来事は俺が転入してから約一ヶ月後のことだ。

 早い話し、俺の弁当に塩を盛るなんて、いつだってできたことじゃねーか。

 それって寄白さんと九久津が一ヶ月待っててくれたってことじゃん、あんまり早くに人体模型やヴェートーベン、モナリザなんかと合わせたら、俺がビビって逃げる可能性もあったから、それに死者との戦のときに校長は

 ――すこしずつアヤカシに慣れてもらうため。六角第四高校からは瘴気が洩れているから。つまり耐性をつけてキミの力を覚醒させようとした。ごめんなさい勝手なことをして。――って。

 あっ?!

 校長も寄白さんも九久津も……さ、三人とも待っててくれたのか、あまり俺を急がせないように。

 ――いいな。僕は憧れるな。期待されるがゆえの放置って。きっとキミは能力者として特別な存在なんだろう――

 只野先生のあの言葉……べつに俺は放置なんてされてなかったんだ、ゆっくり時間をかけてもらってたんだ……。

 そっか、そうだよな。

 俺はバカだ。

 三人はアヤカシと関わってる経験日数がぜんぜん違う、それこそ生まれたときから身近にアヤカシや忌具が存在してたんだし。

 ああ、なんで気づかなかったんだ俺は。

 校長はアヤカシの起源も渡してくれたし、九久津の家の忌具保管庫の存在も教えてくれた。

 なんだよ、これって色々教えられてる現在進行形じゃねーか。

 ここ最近で得た知識以外のことに俺はたまたま遭遇した、それを勝手に教えられてないって思い込んで。

 みんなに教えられるより前に、これから知るはずの出来事が先にやってきたってだけだ。

 ものスゴイ量のアヤカシの知識を一ヶ月で覚えろ――ドン。って分厚い紙の束を積まれてみろ。

 完全にジ・エンドだ、どうだ俺?

 そうだろ?

 覚えきれねーって、なるだろ。

 確実になるな……主要五科目の中間テストの範囲であたふたしてるくらいだ。

 なんでもかんでも一度に全部ってわけにはいかねーんだ。

 そうだよな。

 たかだが開放能力オープンアビリティって知識を只野先生に教えられたからって……別に俺は放っておかれたわけじゃない。

 その知識はゆくゆく知ることになる、ん……ん……?

 只野先生の口から聞いたってのも”ゆくゆく”の範疇なんじゃねーか。

 そうだよ、あっ、やっぱ俺はバカだ。

 校長と寄白さんと九久津だけからしか、アヤカシに関する情報を得ることはできないんだって思ってた。

 でも違う、近衛さんと一緒になってわかったこともある、六角市の結界とか。

 社さんにも、エネミーにだって。

 そうだ病院の看護師さんにも……教育委員長にも……教えてもらってた。

 俺は関わる人すべてから学べばいいじゃねーか。




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