第171話 国家

 「なるほどそういうことじゃったか。ある種獅身女との戦闘いま起こったようなことがモンゴルとヨーロッパで起こっていたということじゃな。国益のための隠蔽、が」

 「はい。イタリアの【ディオ・スペッキオ】の紛失の隠蔽だって、それは国の威信を守るためですし。引いて言うなら国内でのパニックを招きかねないことを懸念する治安維持政策だとイタリアの担当官は非公式ながら半公式の声明を残しています」

 「とはそういう場所じゃ。それと話はすこし変わるのじゃが蛇の存在がまさかフランスの中枢にまで届いているとはのぅ」

 「僕と堂流が仲良くなったときにヤヌダークと繰も親交を深めてましたから。ですので繰からヤヌダークに伝わった話を僕が聞き、ある程度精度の高い話だと僕が判断しました」

 「なるほど……」

 升がそう、呟くと六角市市役所の第七会議室でのやりとりを思い返した。

 ――ということは六角市に蛇が侵入はいったのかもしれません。リンゴを食べさせた蛇が。

 もっともあれは寄白校長が己を沈着ちんちゃくさせるがゆえの言葉だったのじゃろうが。

 「蛇については最初に寄白校長が言いだしたことじゃった……なにかの気配を感じ取ったんじゃろう。感覚的に」

 「一応、トレーズナイツではヤヌダークと繰の話から、その蛇という存在に警戒するように動いてはいるのですが確実な証拠がないために口頭での注意喚起に留まっています」

 「う~ん。確かに十年前ワシも五味校長も六角市にいないときに、九久津堂流とバシリスクの対決あの事件が起こった。堂流くんがそこまで考えて動いていたとは、まあ元から天才じゃったからのぅ、弟の毬緒くんも引けをとらない能力者じゃが。寄白校長が裏をとられたという表現は正しい。ワシも鷹司くんに進言するから、キミたちもフランスとして日本政府に一報だけでも入れてくれんか? それなりの役職を折り紙に付けなければ、国は動かないんじゃよ」

 「わかりました。フランスの外交役は僕ですので。ヤヌダークから話を聞いたその日に世間話程度として一条個人には伝えてあります。……ルイもヤヌダークと繰の説は正しいだろうと言っていました」

 「ルイくんそう言うなら、寄白校長たちの推論もかなり信憑性が高いということじゃな。日本とフランスだけでも最初に足並みを揃えれば、それに追随する国は数カ国はあるじゃろ?」

 「そうですね。ヤヌダークは蛇がヨーロッパ圏に潜んでいると考えているようでしたので。ただ僕とルイは蛇がどこいるのかまでは判断材料がすくなくなんとも言えないのですが……」

 「蛇のねぐらか……」

 「まあ、現段階で蛇の居場所なんてわからないでしょう……そんなすぐに尻尾をだすヤツならこんなことにはなってないでしょうし。……話は変わりますが、今回、僕が升さんをお訪ねした理由……」

 「おお。そうじゃった、そうじゃった」

 升はパチンと手を叩く。

 「それで?」

 「日本の固有種である座敷童についての情報をお訊かせ願えないかと」

 「おお、あのわらしの、か?」

 「はい。どうして被虐されつづけた子供のアヤカシがあんな希力を蓄えることができるのかを知りたいんです。実際に日本の土地を歩き空気に触れたほうが理解が深まるかと思い来日した次第です」

 ボナパルテは大きく夜気を吸い込んだ。

 「本当に日本は平和ですね。やはりそういうのとの因果関係もあるのでしょうか……? 最近はフランスうちでもテロが増えましたから」

 「確かに日本は平和じゃ。じゃがのぅ、有事のさいでも戦車は近衛くんのいる国交省の許可を得ずに公道を走れないんじゃよ。そんな縛りがいくつもある。それが他国よりもすこし平和だという名目なら、聞こえはいいのかもしれんがのぅ」

 「そうなんですか?」

 「ああ、そうじゃ」

 升がそう首肯しゅこうしたあとに――あのわらしは、確か……鷹司くんと……。

 と言葉をつづけた。

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