第165話 証言者

 

白人男性が脇に抱えていた、タブレットから――ピーン。と電子音がした。

 「……なんだろう?」

 液晶画面にはメールを受信したという旨のポップアップのメッセージがある。

 タップすると署名欄には【二条晴】という文字があった。

 「一条さん。文科省の二条さんからです」

 そう読み上げた。

 「なんだって?」

 「――通信機器の電源を切るなバカ。だそうです」

 「……」

 一条は苦笑いを浮かべる。

 「それはスルーしてくれ。本題は?」

 「――どうせ私の言葉スルーする気でしょ。バカ、アホ。だそうです」

 「マジか?」

 (やるなあいつ。俺の行動読まれたぜ。なら虫の報せ使ってこいって……まあ、そうそう使わなねーか。それを考えるとバシリスクのとき近衛ってよっぽど焦ってたんだな。口語と虫の報せ同時だったからな。――一条、気づいてるんだろ。たのむ?! って口からでてたもんな )

 「はい。それだけ添えられてます。このタブレットのアドレス二条さんに教えておいたんですか?」

 「まあ、一応な。なんかあったときのために」

 「だとしたら」

 「言わんとすることはわかる」

 一条が自分のスマホの電源を入れたと同時にメールを受信した。

 そこに”これを観て”というメッセージとともに、日本当局の公式ドメインのURLがあった。

 「海外まできてるってのになにがあったんだよ?」

 メールに書かれたクローズどサイトのURLをタップする。

 「ボクは席を外してますね?」

 「べつにいいよ。おまえも観とけ。アヤカシと無関係な世界にいるわけじゃねーんだし」

 リンクのさきにはWebに埋め込まれた動画ファイルがあった。

 その下は、まるでスロットのように六桁の数字が高速で減算している。

(この数字の減りかた……六十からはじまって、いまは五十九か、一桁目と二桁目は、三と四桁目がふん、五、六桁は秒だ。IDもパスも要求されない。ってことは期間限定ページで一時間後に消えるってことだ。このURLを知ってるやつは誰でも閲覧できることから当局関係者の共通認識として観ろってことね。んで動画のファイルは二つ)

 動画の真んなかには右向きの二等辺三角形がある。

 つまりは再生ボタンだ。

 一条は迷わずにタップした。

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 「では、お願いします」

 「うちの飼い犬の鳴き声がなんか変だな~って思って、あんな鳴きかたするのなんてはじめてでさ」

 「はい。それで」

 「吠えてる方向を見たのさ」

 「はい」

 「そしたらべつになにもなかったね」

 「えっ?……っと、そ、そうですか」

 「証言できるのはこれくらいかねぇ。力になれずすまないね~」

 「いえ。貴重なご意見ありがとうございます」

 「けど、動物ってのはさ人間には視えないモノも視えてるっていうしさ」

 「そういう話はよく聞きますね」

 「ただ、ワシが住んでるのは六角市・・・。そんなこともあるかと思ったわけさ。ところで”シシャ”ってのは本当にいるのかい? なんか市民の生活に紛れ込んでるんだろ? 」

 「シ、シシャですか……? さあ、どうなんでしょうかね。ボクは国交省の職員ですので、ちょっとわからないですね」

 「そうだよな~。国交省って道路や建物の管理してる人だもんな」

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 (聞き取りしてるのは近衛の部下か? ってことはこの動画の一次ソースは国交省……? 早い話、近衛がこの動画を観とけってことで送ってきたのか)

 一条は、もうひとつの動画の再生をはじめた。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 「お願いします」

 「そのときのことを教えていたただけますか?」

 「私、早朝ランニングしてたんですよ」

 「あっ、ちょっと、話の腰を折ってすみませんけど。あの、ここで壁というか工事現場を囲んでいるフェンスに向かってなにかを呟いていますよね?」

 「はい」

 「なんて言ったのか覚えていますか?」

 「忘れるわけがありません。私は、あのときフェンスの下から流れてくる嫌な空気を感じて足元を見たんです。そのあとにフェンス越しに校舎を見ました。そこで私が呟いた言葉は――なにあの椅子。です」

 「椅子?」

 「はい。真っ黒なロッキングチェアが気味悪くユラ~ユラ~って揺れてたんです。揺れかたは人が嫌うようなリズムでした」

 「黒いロッキングチェア?」

 「そうです。デザインもなにか変で。肘置きのないロッキングチェアでした。しかもその椅子からは人の影みたいなのがブワーって飛びだして宙を漂ってました」

 「人の影……」

 「はい。だから私、気持ち悪くなっちゃって。私は元からそういうの視える体質なんですけど、その椅子はとくにイヤな感じがしました」

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 (忌具か……。……ん? まだ動画の残り時間がある)

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 「※この動画をご覧いただいているかたへの追伸です。証言者のかたがこの出来事に遭遇した日は沙田雅が六角第一高校に転校した初日です。間接的に遭遇している可能性も否定できません」

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 そんな挿入した文字が上から下にスクロールしてきた。

 (……? 沙田雅の転校日ってことは、あの絵画と人形よりも約一ヶ月早く動いてたのか。これからジーランディア行くってときに余計な仕事を増やしやがって。新約死海写本のこともあるし……まあ、そんなことを気にしねーのが俺らだけどよ。あいつらもあいつらで複数の仕事かけ持ってるだろうし)

 「ほ、本当に日本では忌具が動いてたんですね?! それと沙田雅って新人能力者ですよね。確かドッペルゲンガーを使う【自己模倣者セルフ・デュプリケーター】」

 「違う。あいつはそんな単純じゃねーんだ」

 「そうなんですか? でもミッシングリンカーですよね?」

 「そう。あいつはタイプCのミッシングリンカー。でもな……」

 (で言うなら、俺が先輩ってことになるんだけどな)

――――――――――――

――――――

―――




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください