第162話 新約死海写本 ”七つの大罪”

 「でも……外務省はすでにかなりの新約死海写本を手に入れてると聞きます……」

 部下はまた近衛へと視線を移した。

 刹那、近衛の答えを待った、返ってくる言葉が自分の予想と違っていれば良いと言うかすかな希望を抱きながら。

 「ああ。相当数のY(時間)軸からの警告を聞いている。おまえがその気なら、ファイル化したものを」

 近衛が話し終える前だった――見せてください。と頭をさげた。

 返答はやはり部下の予想通りだった、それは当然の帰結でもある当局内に立つ噂はそれなりの信憑性を持ってはじめて噂となる、かすかな希望は露と消えた。

 そのため当局内の噂は噂でありながらほぼ真実である、どうしてほぼ・・なのかそれは当局内において火のないところに煙たてる者も存在するからだ。

 近衛は返事をすることもなく、自分のスマホをとりだした。

 つまりはそれが無言の同意だ。

 画面の上でいくつかの操作をしてから部下に向かって掲げる。

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1、遺伝子改造

2、人体実験

3、環境汚染

4、社会的不公正

5、貧困

6、過度な裕福さ

7、麻薬中毒

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1、理念なき政治

2、労働なき富

3、良心なき快楽

4、人格なき学識

5、道徳なき商業

6、人間性なき科学

7、献身なき信仰

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 「こ、これは」

 「何百回枚に及ぶ、新約死海写本を解析して翻訳するとそういうことになる」

 「”新七つの大罪”と”社会的七つの大罪”……いまの世界そのもの……」

 「たとえば”社会的七つの大罪”の”理念なき政治”を修文の連番硬貨に当てはめてみる」

 近衛はそう言ったあと口をつぐんだ。

 部下はすこしだけ考えこむ、近衛のこの間はある種の問いだと解釈した。

 それは長年付き従ってきたからこそ感じとれるものだ。

 「そのたとえば・・・・たとえば・・・・で返します。ときの政府が人気取りのためにイベント的な公算で通貨を発行した。使いやすさはにのつぎで」

 「ありえる話だろう」

 「はい。乱発発行した硬貨が”理念なき政治”の結果だと十分考えられます。その仮定が正しいとするなら平成の世界どころか、修文の世界のX軸にも影響している。負力はもう両世界」

 「勘違いするな」

 近衛は口を挟んだ、部下の「に」と重なった。

 「ただの可能性だ。”理念なき政治 ”というくくりあまりに大きすぎる。ワタシはおまえの思考がそう向くようにミスリードしたんだ。”理念なき政治 ”と”使い勝手の悪い硬貨”その二つのお題をだせば人は勝手それを結びつける」

 「えっ、あっ、ああ。本当だ。なんとなく……結びつけて考えないといけないような気がして……」

 「惑わされるな。おまえはさっきもすぐにカタストロフィーと結びつけた。確かにその可能性は高い、だがそうなると決定したわけじゃない。Y(時間)軸の警告は脅迫ではなく、回避策を思案するための助言だと思え」

 「あっ」

 部下は目から鱗が落ちるを本当に体言たいげんするような表情をした。

 「そ、そうですね」

 心の底からでた呟きだった。

 「どの国の当局もそんな脅威から人を守るために、日々動いている」

 ――ガタッ。なにかの物音につづいて、近衛たちにひたひたと近づく足音がある。

 ――ぴたっという音のあとに数秒の沈黙があり、また――ぴたっと音がする、それがなんどか繰り返されると、二人の視線のさきに木炭に粉チーズでもまぶしたような革靴のさきがみえた。

 靴底が足元を探るようにして地を踏んだ。

 「おっ」

 すこしよろけながら姿を見せたのは、近衛のべつの部下だった。

 まるで商談用とでもいうような高価な革靴が土埃で斑模様まだらもように汚れている、それは当然スーツも同じだ。

 部下は地上のオフィスとは場違いなこの場所へずいぶんと時間をかけてやってきた、それは同時に近衛にまたべつの仕事が舞い込むことでもある。

 さきにきていた部下も、いまきた部下も当然顔見知りで挨拶がてらに手をあげて――おう。と一言声をかけた。

 ――おう。それに返答して手をあげる。

 「近衛さん。空飛ぶ刀のことを調べていたら興味深い証言があったので、いても立ってもいられずにここまできてしまいました」

 「世話をかけるな。……それでどんな証言だ?」

 「刀とはまったく関係のないことなのですが……」

 「かまわない。おまえが気になったのならそれは国交省ワタシたちすべての仕事だ」

 「わかりました。えっと映像として残っていますので、まずはこのビデオカメラを観てください。ちなみに証言をくれたかたは六角第四高校の周囲をランニングしていたという若い女性と、同じ場所で犬の散歩していたという老夫婦のかたです。とくに飼い犬のミニチュアダックスフンドは奇妙な吠えかたをしていたとか……」

 部下の土産を見終えた近衛は険しい顔をしている。

 眉間にしわを寄せ、一度目頭を指さきで押してから、口元を覆うように手をあてた。

 「二条。いまいいか?」

 『いいけど。どうしたの?』

 二条の返答はすぐに返ってきた。

 近衛は六角市の地下に潜んでいるためにやむなく、開放能力オープンアビリティのである虫のしらせを使った。

 虫の報せは双方向間のテレパス能力、よって互いが受信と送信できる状態でなければ成立しない。

 さらに虫の報せは、瞬間的な感覚の伝達で”危険””逃げろ”などいくつかの単語を組み合わせるのが一般的で長時間の会話には適さない。

 それは言語を乗せる場合は能力者の体力の消耗が激しく、また通話距離が長くなればなるほど情報漏洩の確率が高まるからだ。

 「二条。観てもらいたい映像がある。すぐにそれを送らせる」

 『……どんな?』

 「言葉で説明するよりも見たほうが早い」

 『わかったわ』

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