第155話 蛇の巨魁(きょかい)

 

『あっ。ごめん。ちょっと電波が』

 ヤヌダークはようやく我に返って、ありきたりの言葉で取り繕った。

 「そう。ヤヌ。けどあなたのせいじゃないわよ。フランス国民みんなを思ってしたことなんだから」

 繰はヤヌダークのを読んだ。

 電波が弱まったなんてことは、口からの出まかせだとすぐに気づいた。

 だけれど、その話を広げることはしなかった。

 いまはそれが一番正しい選択だと思ったからだ。

 人には誰だって、触れられたくない傷がある。

 『繰。その言葉に救われたわ。ありがとう。でも繰よく考えてみて。十年前のバシリスク出現時六角市にバシリスクを倒せそうな能力者は堂流以外にいた?』

 「えっ? 堂流以外」

 (あのときって……。たしか升教育委員長も五味校長もつぎの国際交流会会議で六角市にいなかった……)

 「いいえ。いなかったわ」

 『その意味がわかる?』

 「……ん?」

 (まさか、日本は升教育委員長と五味校長の不在時を狙われたってこと)

 『……モンゴルはミドガルズオルムとヨルムンガンドに攪乱させられていた。そんな真っ只中フランスの実力者であるボナも偶然モンゴルに向かってた。そしてその隙にヨーロッパはバシリスクの進入を許した。とくに進入口にあたる東ヨーロッパの被害は甚大だったと聞く』

 「あっ、話のなかに登場する国、日本、モンゴル、フランス三カ国すべて裏をかかれてる……。いいえEU圏だとすると約三十ヶ国」

 (そんな偶然あっていいわけがない。偶然すぎる偶然は作られた悪意。誰かがいた)

 『世界を股にかける狡猾ななに者かが動いてる可能性がある。そいつがバシリスクを見張らせた張本人で、そいつこそが主だと考えれば話は繋がってくる。まさに蛇の巨魁きょかい

 そう言った、ヤヌダークはここでロベスの姿を浮かべたわけではなかった。

 その理由も明確なものはなく、ただの感覚だったあんな掴みどころのないやつが、ここまで緻密な作戦を練ることができるのだろうか?と思った、それでもなにかを知っていることは間違いないとも考えた。

(狡猾な何者か……?)

 繰は電話越しに身震いする。

 そんな狡猾で冷徹な存在に心当たりがあったからだ。

 いまだにいるかいないかも判明してはいないけれど、いつもいつもその存在をにおわせてくる、からちてきた者の存在に。

 (蛇……。旧約聖書から抜けだした災い。堕天の悪魔が遣い魔を遣うってそのままね)

 「さらにそいつがもしなにかしらの能力者だったら。いいえそんなやつが無能力なわけがないか……」

 (真野絵音未を唆した人物も人体模型をブラックアウトさせた人物も、バシリスクを操っていた者もすべて同じ人物……。あの日学校は人体模型のブラックアウトで狙われて、六角市内はバシリスクに狙われた。ある意味守護山を起点と考えた場合、内と外を同時攻撃されたことになる……)

 いまこのときヤヌダークと繰はその者かがどこにいるかを考えていた。

 ヤヌダークはフランス、あるいはEUをふくむヨーロッパとモンゴルあたりを想像している。

 反対に繰は日本以外には考えられないと思っていた、繰にはさらに踏み込んだ考えが生まれはじめていた。

 このとき二人に思考の齟齬そごが生じた。

 『これは世界規模の緊急事態に発展するかもしれない……』

 (それに二条さんの言ってた藁人形……あれって忌具よね。蛇はあの日、忌具をも同時にぶつけてきたのかもしれない。それこそ忌具を道具・・にしての波状攻撃。もしかして堂流、あなたは十年前から気づいていたの? 日本いや六角市にがいることを。だから海外に飛ばした可能性もある。だったら堂流はいつどこでそれに気づいたんだろう? わからない。私にはなにも言ってくれなかったし)

 「ヤヌ。そいつの目的ってなんだろう?」

 『目的……ね。人が罪を犯す動機は大きくわけて四つ。怨恨、異性間トラブル、金銭目的、快楽ね』

 「そのなかで考えるなら……」

 (怨恨の場合は対象者が多すぎる。この状況で異性間のトラブルってのも考えづらい、快楽目的でここまで綿密に計画するかな? これもあまり現実的じゃない気がする。だとしたら金銭目的か……そっか世界を混乱させるなら、全世界が緻密に連携してる株、FX、仮想通貨のような金融関係か)

 『どのみちいま私たちが話した話をトレーズナイツ内に進言してみる』

 「ええ。お願い。手遅れになる前に……。それにフランスという国が動けば日本の当局にも話が通りやすい」

 『そうよね。そういえば当局で思いだしたんだけど、日本の外務省がジーラディア大陸を調べてるらしいんだけど知ってる?』

 (ジーラディアってアンゴモアが発露したあの大陸か。アンゴルモアって言葉はモンゴル・・・・が由来って話もあったっけ)

 「失われた大陸ね。いいえ知らないわ。そこまでの情報はここにはきてない。そもそも省庁の情報は私たちには降りてこないし、升教育員長になら話は行ってるかも」

 『そっか。まあそういうことで……私もやれることをやるわ』

 「ええ。ヤヌ。ありがとう」

 (堂流。お願いみんなを守って。この話は九久津くんにするべきなのかな?

けど場合が場合だけにまだ早いかな)




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