第153話 天才の足跡

「ええ。堂流が飛ばしたのよ。モンゴルに」

 『九久津堂流が? どんな方法を使って』

 「排斥召喚はいせきしょうかん

 『排斥召喚? そんな召喚術は聞いたことがないわね』

 「でしょうね。だって堂流が創りだした技だもの」

 『創りだした?』

 「ええ。早く言えば召喚ってのは引力。その逆の力を利用する術式が排斥召喚」

 『そんな方法が。でもそんな距離を飛ばせる?』

 「オープンアビリティの亜空間を定点配置させた上で排斥召喚を合わせれば可能。堂流なら地球の真裏にだって飛ばせるわ。ほらアコーディオンカーテンを思い浮かべてみて、あの閉じた状態が排斥召喚を使った場合の日本とモンゴルの距離。そこを広げた状態が日本とモンゴルの本当の距離。アコーディオンのひだがショートカットするための亜空間」

 『お、驚いた。そんな距離を……日本人のクリエティビリティには想像以上ね。まあ、天才の九久津堂流だからできたのね』

 「堂流ね。理科の授業で思いついたんだって」

  繰は自分のことのように喜んで答えた。

 (そういうことだったんだ。アヤカシは基本的に魔空間を通って行動するって思い込みがあるから、当然ヨーロッパにも魔空間を通って行ったと思う。堂流はボナに託したんだ。あんな怪我を負っていながらも)

 『サイエンス?』

 「そうよ」

 (堂流はいつも教育の大切さを重んじていた。九久津くんにもよく言ってたっけ。義務教育から産まれるものがたくさんあるって。教育。創造と想像の融合か)

 『さすがは救偉人ね』

 「ある意味排斥召喚は学校で教えられたようなものなのよ。引力に対する斥力せきりょく。ボナがいるという明確な目的があったから。堂流は安心してそうした」

 『けど、ボナがいるってわかってるにしてもどうしてモンゴルにまで飛ばす必要があったの?』

 「あの日、堂流が受けた傷のなかで一番大きな怪我は右脇腹・・・の傷」

 『うん。それで』

 「どうしようもなくなった堂流はバシリスクを遠ざけるしかなかった」

 『そんな場所なら日本にだっていくらでもあるんじゃないの?』

 「日本にはそんな場所は多くないわよ。国土を考えてみてよ。日本なんて地図で見れば本当に小さな島国なのよ」

 『まあ、そう言われればそうね』

 「堂流が考えたのは飛ばしたさきが人の居住地ではなく、かつそこでバシリスクがしばらく行動しても人的被害がないところ、さらには信頼できる能力者が早めに退治してくれる場所」

 『そういう条件か。だから人気ひとけのないゴビ砂漠に飛ばして、モンゴルの援護に向かっていたボナに任せたってわけね? 繰、ずいぶんと堂流の気持ちが理解できるのね?』

 「えっ、うん。これでも私たちはバディだったんだから。堂流は知ってたのね。ボナがモンゴルに応援に行くことを」

 『仲良かったもんね。ボナは日本好きだし。あと日本の固有種である“座敷童”にも興味を持ってるみたいなんだよね。各国にさまざまある“住人に幸運をもたらす家憑き”のなかでも特殊なタイプだって』

 「へ~そうなんだ。座敷童にね」

 (そういや、美子……あっ、これはあとでいいか)

 『なにかを感じたんだと思う。座敷童って口減らしの子供の思念がアヤカシになったものでしょ。ふうつなら人間を不幸にしてもしたりないほどの怨みだと思うんだどね』

 (それどころかあのサージカルヒーラーの能力もあるしね。あんな境遇のアヤカシなのに治癒能力だもんね)

 「う~ん。それも意外と国民性なのかもしれないわね。あれ?! じゃあ、モンゴルの部隊はミドガルズオルムを倒し損なったってことよね? ミドガルズオルムの退治は五年前だしつぎの鋳型生成までは数十年は必要だろうし」

 『いいえ。倒したわ……』

 ヤヌダークの声が低くなった。

 繰はすぐにその変化に気づいた。

 「で、でもミドガルズオルムの退治は確か五年前だったはずじゃ」

 (私が参ってるときに雛に聞かされたばっかりなんだけど――ミドガルズオルムは、五年前に通称キプチャク草原にてモンゴルの能力者たちに倒されています。Webで確認しますか?ってね)

 『そうよ。ミドガルズオルム五年前に退治された。ただその日に確かに上級アヤカシは一体退治されてる。倒されたのはミドガルズオルムじゃなく』

 ヤヌダークはを置いた。

 ――じゃなく? 繰は同じことばを呟いていた。

 『それは』

 繰は息を飲む。




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