第152話 パズル

 

「ど、どんな?」

 『それは大きなクレーター画像』

 「クレーター画像? ヤヌ。ぜんぜん話が見えない」

 繰はヤヌダークの話の筋が読めずに焦りはじめた。

 指先がコンコンとリズミカルに机を叩く、それは小さなストレス発散のためで無意識の行動だ。

 『まあ、聞いてって!! その場所っていうのがゴビ砂漠なの』

 「えっ? べつに砂漠のなかにクレーターがあってもいいんじゃないの。風の影響とかも考えられるし? でもゴビ砂漠っていえば私にはミドガルズオルムのイメージしかないわ。確か約五年前よね? ミドガルズオルムが退治されたのは」

 『そう。モンゴルのキプチャク草原で退治されたのがそのミドガルズオルム』

 ヤヌダークはクイズ番組で正解を当てた司会者のように言葉を返した。

 「えっ、それも関係あるの?」

 『あるある大アリ。ミドガルズオルムがモンゴルに現れたのが堂流の亡くなる三日前。モンゴル当局がミドガルズオルム討伐作戦中にバシリスクが現れたことになるのよ』

 「え、えっと。私、こんがらがってきた」

 ヤヌダークはそこで――ふぅ~と息を吐くといつかを懐かしむように話題を変えた。

 まるでさっきまでの会話がなかったかのように。

 『繰。私たちって国際交流会で出会ったよね?』

 「そうだけど。それが」

 『まあ、あれがなかったらこんなに親しくなることもなかったかもね?』

 「そ、そうかもね」

 繰も感慨深く答えた。

 『それは九久津堂流もボナパルテも同じだと思うの』

 「そうだよね。堂流もあのときボナと仲良くなってたし。……ボナなんて、いまは……」

 繰は、机の上にあるタッチペンを持ち、目の前に置かれたタブレットにそっと触れる、ペン先がグニっとへこんだ。

 それから画面を左右にスライドさせたり、いくつかの操作を繰り返し、ボナパルテのページへと接続した。

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 Bonaparte

 読み:ボナパルテ

 国籍:フランス

 趣味:辞書を眺める。

 嫌いなもの:寒波、不可能なもの。

 好きなもの:寒くないところ、可能なもの。

 備考:トレーズナイツのナンバー2

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 「すごい出世だよね。トレーズナイツの二番手なんて」

 『そう。十年前はミドガルズオルムの援護部隊としてモンゴルに派遣されたこともあったのに、よ』

 「えっ、いまなんて?」

 繰はヤヌダークの言葉で、心のなかにあるなにかが引っかかった。

 本当に脳が光かったかのようにピンとなにかをひらめくとパズルのピースが組み合わっていくのを感じた。

 ヤヌダークは――「だ」「か」「ら」を音符のスタッカートのように短く切る。

 『ミドガルズオルムの討伐に参加してたの。もう一度言うわね。ミドガルズオルムの討伐に参加してたの』

 「も、もしかして?!」

 『そう。気づいた』

 「ええ」

 (心の靄が晴ていく)

 『話をまた戻すわよ。さっき話したゴビ砂漠のクレーターはずっとミドガルズオルムの跡だと思われてたのね。でね、モンゴル当局が解析した結果バシリスクのものだと判明した』

 「バ、バシリスクの? 解析ってどうやって?」

 『鱗の形状。ほらアヤカシだって同種でも、それぞれ負力の構成要素だったりが違うじゃない。だからそのときは砂についた跡を復元したのよ。皮膚片立体化法でね。そしてそれを照合したってわけ。さらにその跡をさらに詳しく解析するとバシリスクは遙か上空から弧を描くようにゴビ砂漠に落下してきたとモンゴル当局は結論付けた』

 (えっと、そうなると)

 繰のなかでさらに、ピースが埋まっていく。

 「じゃあ、そこがバシリスクの最初の着地点ってこと?」

 『おそらくそう。私もバシリスクがどこから飛んできたのか知りたくて、さっそくトレーズナイツの権限で調べさせてみたんだけど、日本の六角市もおもいっきりふくまれてた。だからバシリスクは日本からゴビ砂漠にやってきてそして数時間をかけてロシアへと北上した。だけど問題は数時間前に日本から』

 繰はヤヌダークとの会話中でも、考えごとをしていた。

 それでいながらヤヌダークの話をきちんと把握している。

 繰はこのときばかりは脳が二つあって、それぞれがそれぞれでタスク処理しているような回転をみせていた。

 (その時間ってもう堂流はバシリスクとの戦いを終えてたころか……な……?)

 『ゴビ砂漠にどうやってきたのかってことなんだけど、魔空間を通ったわけでもないらしいの』

 (じゃあそのあとにモンゴルに飛ん……で、飛ぶ。……ん? 飛ばす。飛ば……飛ばした)

 ヤヌダークが「よ」を言い終わる前に

 「待って!!」

 繰は声高にヤヌダークを遮った、そのあとにヤヌダークの伝え忘れたかのような「ね」が聞こえた。

 繰は長年の鬱積が解かれていくのを感じる。

 「私はその理由を知ってる。いや知ってたけど気づいてなかった。私はバカだ。堂流が国民みんなのためにしてくれたことを」

 『ど、どういうこと?!』

 今度はヤヌダークが聞き役に回る。

 (そっか、そういうことだったの。あのとき堂流はボナを買ってた)

 繰の顔から笑みが零れた。

 繰にとってそれは十年間堰き止められていた、心が動きだすにも等しい。

 壁の時計と体内時計が同期し、その身に緩やかな時間ときが流れはじめる。

 十年前から、世界は自分だけを置きざりにして回りつづけていた、それがいま繰にも戻ってきた。

 ――カチ、カチ。っと秒針と心臓の鼓動が重なっていくのを確かに感じる。

 『繰。教えてよ?』




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