第151話 ガールズトーク

九久津がバシリスクを倒してから一週間。

 上級アヤカシの退治は世界共通の目的であるため、どんな種類を退治したとしても諸外国には多大な影響を与える。

 そのため六角市も教育委員会をはじめ、当局も慌ただしく過ごしていた。

 繰とて例外ではなくその渦にいる。

 株式会社ヨリシロ本社はいまだ六角市に籍を置いている、それもすべて六角市への益を考えたためだ。

 六角市にあるヨリシロの自社ビルはほかの都市にある支社よりも遙かに小さく、大企業としてはこじんまりとしたわずか五階建てだった。

 ガラス張りのファッションビルのような外観が際立っている。

 繰は社長室で学校職をすこしずつ切り離して社長業をこなしていた。

 校長室同様にオフホワイトで統一された家具。

 白い革張りのチェアに頭をもたげた。

 デスクの上には“株式会社ヨリシロ 株主総会草案”と書かれた資料が散乱している。

 「とりあえずは、これでいっか」

 一息ついた繰は両手を大きく広げて書類をかき集める。

 ひとつの大きな紙の束を作り、机の上でトントンと縦横を揃えた。

 (ふ~。こんなときなのに株主総会の準備もしないといけないし。学校との掛け持ちは大変。スケジュールもいっぱいいっぱい。あっ、ヤヌにも電話しないとだし)

 「ヤヌ。トレーズナイツに抜擢ばってきされたんだって?」

 『ええ』

 二人には、当然オープンアビリティである反バベル作用が適用され、言語の壁はなくなっている。

 「そっか。おめでとう」

 『ありがとう。けどねロベスのやつがトレーズナイツに裏切者がいるとかって言うのよ』

 「それが作戦なんじゃない?」

 『まあね。それがあいつのやり口でもあるし。本当にっからの悪なのよ』

 繰はスマホでヤヌダークと会話しながら、タブレットケースの上に縦置きしたタブレットを操作した。

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 トレーズナイツ。

 フランス大統領直下の精鋭能力者たち。

 日本の救偉人とは異なり、フランス国内に十三人しか存在せず、

 各々の裁量で軍隊の一小隊を動かすことができる。

 ナンバー1からナンバー7以降のメンバーは、

 その時々の活躍者が抜擢される。

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 『繰にもお祝いを言わないとね。おめでとう。正式にバシリスクだったって結果でたわね?』

 「うん。けど、あれは九久津くんのおかげだし」

 『そっか。九久津堂流の弟ね。んで、彼はいまどうしてるの?』

 「えっ? 九久津くん。ああ、九久津くんは入院中」

 『バシリスク戦でそんなにひどい怪我を?』

 「う~ん。怪我自体はそんなんでもないみたいなんだけど。当局が面会謝絶にしてるの」

 『どうして?』

 「いろいろ調べることがあるって。なによりピンポイントでバシリスクの出現時間と出現場所に居合わせたことが問題みたい。どうやってそれを知ったのかもほかにもいろいろ訊きたいことがあるってことだったけど」

 (ピンポイント予測はもしかしたら、美子の予測にヒントがあったのかも?)

 「まあ、誰にも言わずに独りで行ったってことが特に問題視されてるし。それこそ私たちの誰にも告げず」

 (ほんと男のタイマンってのがわからないのよね……。堂流もって言うなら、まあ、ね。うん理解してあげてもいいんだけど)

 『兄のかたきは、誰にも邪魔されずに自分ので思ったんじゃない? 私は理解できるけどなその気持ち』

 「私だってわからなくもないけど。それに九久津くんの内に秘めたバシリスクへの憎悪みたいなのはわかってたし。でも正直さみしいかな……」

 『あの堂流の弟だもの。ほかの人を巻き込むくらいなら自分の手で倒すって優しさよ』

 「うん。それも九久津くんなのよね」

 (あっ、でも沙田くんに言った――答え合わせに行く。ってのは九久津くんなりのメッセージだったのかもしれない。だとしたら堂流のかたきは、九久津くんじぶんが取るっていう証明だったのかな。なら私は蚊帳の外?)

 『繰』

 そう繰の名を呼んだ瞬間から、ヤヌダークの言葉が堅苦しくなった。

 「なに?」

 『私ね』

 ヤヌダークはまたかしこまったままだ。

 『トレーズナイツになって上級サーバーへのアクセス権をもらえたの』

 「うん。それで」

 そこで反転したようにヤヌダークの声が弾んだ。

 『それでね』

 繰はヤヌダークの意気揚々とした言葉に、なにか良い話がきけると予感した。

 「うん。それがどうかしたの?」

 繰の声も弾んだ。

 『フランスって日本の組織と違うから繰にはわからないかもしれないけど……』

 「う~ん。そもそも私って日本当局の人間じゃないし。政府とは協力関係にあるってだけだから」

 『まあ、それぞれの国で組体系が違うのは当たり前だけど。なにより私たちはフランス当局というよりEU当局って感じだし』

 「そこはやっぱり文化の違いってことよね?」

 『うん。まあね。でも聞いて。今回トレーズナイツになって、バシリスクのことですこしわかったことがあるの』

 「な、なに?」

 繰のなかでわずかに緊張が走った、なにかの合否通知でも開封するように。

 『バシリスクが一番最初ヨーロッパ・・・・・で目撃されたのはロシアだったのよ』

 「……ん? それを今更知ってなにかあるの?」

 繰は思った以上に自分が身構えていたことに気づく、ヤヌダークのその報告がいまの自分にとってはなにかのオマケていどのものでしかなかったからだ。

 それでも思い直すヤヌダークがただ・・そんなことを言うはずがないと。

 (ヤヌはなにを言いたいんだろう。それより……ロシアってあんまりヨーロッパって気がしなのよね。なんとなく半分アジアって感じで)

 『質問は最後まで話を聞いてからにしてね』

 「わ、わかったわ」

 繰は、ヤヌダークに押され気味でそう答えた。

 『そのロシアで目撃されたってのが九久津堂流が亡くなった翌日。ただ厳密な時間換算にすると堂流が亡くなってから半日も経ってないの。ただ日付が変わったってだけでね』

 「えっ?! それじゃあ」

 『そう。その日に日本からロシアに移動したことになる。時間で言うなら堂流が亡くなってから約十時間後にはロシアにいた計算』

 「ちょ、ちょっと待ってよ」

 繰は自分の頭と気持ち、その二つを整理しようとしているがヤヌダークはそのまま早口で会話をつづける。

 『つぎが重要なのよ。ロシアで見かけたという報告の五時間前には中国とモンゴルの国境付近での目撃情報があった』

 「えっ……? どういうこと」

 『つまり、堂流が亡くなって、最初の目撃証言がそこ・・なの』

 「う、うん、それで?」

 繰はヤヌダークがなにを伝えようとしているのかが、まるでわからなかった。

 そのため推理の素材にと、ヤヌダークの話をただ聞き入れる。

 早く自分の頭で考えたかったからだ。

 『……そして私はトレーズナイツになったことで、EUの共有サーバーに置かれていたある画像を手に入れた』




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