第15話 隷属(れいぞく)

 「社会人だから。服装は自由なのよ」

 寄白さんが言葉を遮ったのもわざとみたいだし。

 姉妹で以心伝心か。

 「おい、さだわらし?! 人体模型の前でスライディングしたときパンツ見ただろ?」

 な、な、なにを突然。

 えっと、いや軽く目に入ったような気もしない……かも……だけど……まあPCに取り込んでいたなら、確実に拡大して、いちおうトリミングはしてみるが。

 「えっ、いや、そのパンツのことを考えていたのはお姉さまとの《保健室で見てもいいのよ》ってほうのことで寄白さんの、パ、パンツなんて、あの、その」

 寄白さんは腕を組み軽蔑の眼差しを送ってきた。

 ヤカラだ、ヤカラがいる。

 ああ~その犯罪者を見るような瞳、あっ、目の中心に星が。

 ごまかそうとしたが無理っぽい。

 「ごちゃごちゃうるさい!! パンツを見たのか見てないのか?」

 「み、見ました。た、たぶん三割二分五厘ほど」

 「ほ~結構な打率で見てくれてんじゃないの? ってことで、さだわらしオマエは今日からワタシの下僕だ。わかったな?! オマエに拒む権利はない!!」

 俺は名指しで寄白さんの下僕ドラフトに指名された。

 打率で言ったらドラフト二位指名くらいか?

 魔法にかかったように一歩も動けない俺。

 隷属れいぞく決定!!

 「は、はい……」

 終わった。完全に終わった。

 俺はシシャ候補でもなんでもなく変態候補。

 そう、ただのパンツ。

 俺はパンツなんだ……そうだいっそ本物のパンツになろう。

 そして一反もめんとかそのあたりのアヤカシの仲間に入れてもらおうじゃないか。

 一反・もめんのパンツ。

 ここは区切りが大事だ「一反もめんの・パンツ」じゃなくて「一反」で区切って「木綿もめんのパンツ」。

 つまりは空飛ぶ「一反・木綿のパンツ」。

 悠久の時を優雅に舞い、世間の男どもを弄んでやるさ。

 うん、それがいい。

 「おい、さだわらし? またなんかエロい妄想してるな?!」

 寄白さんは未だに俺をさげすんでくる。

 ニヤけながら細めた目が、やけに俺の心にダメージを与えた。

 カワイイ顔してそんな悪ぶった顔をすると、もっとカワイイじゃないか。

 けど、さだわらしってなんだよ? 座敷童とかの仲間か?

 九久津と校長は二人でアイコンタクトをしてこっちを見てる。

 九久津がなにかを話しはじめると、校長は腕を組みして険しい表情へと一変した、そのまま警察の事情聴取のようになにかのメモをとりはじめた。

 九久津も額を掻いたりしながら口を動かしてる、うなずく校長にうつむく九久津。

 なんかあったのか? アヤカシとかいう存在について、その後も二人はなにか深刻そうだった。

 寄白さんは、寄白さんで、まだ俺の答えを待ってる。

 「いや、妄想なんてしてないよ。それに俺は“さだわらし”じゃなく“さだただし”ですけど……」

 「オマエは口答えするな?」

 「はい、すみません」

 (良いコンビね?! 将来の弟かな。毬緒くん、キミも弟にしたかったかな。いやキミのお姉さんになりたかった……かも……)

 話が終わったのか、校長は一度、九久津のほうを振り返ったあとに俺にところにやってきた。

 そして耳元で囁く。

 さきほどの深刻さは消えて甘い声に戻ってた。

 吐息が耳にああ~ドキドキする。

 「沙田くん、ポニーテールのときの美子は見せパンよ。残念だったわね?」

 「そ、そうですか……」

 いやたぶん見せパンでも本パンでも、見たという事実で俺は実刑ですよ、お姉さま?

 「パンツ詐欺に騙されたわね?」

 校長は陽気な酔っ払いのように体を密着させてきた。

 お姉様そんなに体をくっつけられると、もう、うはっ。

 「ちなみに美子はポニーテールになるとツンツンだから」

 「納得しました」

 ポニーテールになるとなにかのスイッチが入るらしい。

 それにしても校長近いよ、そんなに近いと緊張するじゃないか。

 ああ、疲れた。

 俺は校長に先導され別ルートの右側のR非常階段へ向かう。

 「さあ、行くわよ?」

 「あっ、はい、わかりました。あの寄白さんと九久津は?」

 「あっ、二人は大丈夫だから」

 校長は足早に歩く。

 ハイヒールでそんな急がなくても、捻挫とか大丈夫なのか?

 まあ、大人のひとだし慣れてるに決まってるか、それよりなんかかされてる感じするな~。

 ここが危険だからか。

 あっ、悪寒……嫌な予感。

 そ、そうなのか? いや違う……そんなわけがない。

 で、でも、それしか考えられない。

 く、九久津と寄白さん、じ、じつはつき合ってる……と……か。

 となると校長は――二人の邪魔をすんじゃねーぞ!! 的に気を利かせたということか。お~なんて仕打ち。

 「沙田くん。美子の本パンが見たければサイドテールかツインテールのときに見ることね?」

 校長はふたたび悪魔の囁きを呟いた。

 香水の柑橘系の匂いがするなんて爽やかな、校長はどこまでも俺をもてあそぶ。

 「は、はぁ~」

 ――見ることね? って、たとえば寄白さんのパンツを見ようとして正面突破したらそれはそれで変態じゃないか?

 いや、それこそが勇者という考えもあるか。

 なんかいっきに危機感が吹き飛んだ、それとも俺の緊張を解いてくれたのか?

 R非常階段はL側とは違いふつうのくだりり階段だった。

 へ~こっちにも道があったんだ~。

 「校長。本当に非常時になった場合はどうするんですか?」

 「えっ? ああ、そのときは非常すべり台とスプリンクラーがあるから大丈夫。わざわざ学校の端に避難する必要はないの」

 「あっ、そうなんですか?」

 なんだ、ちゃんと万全の準備が整ってたのか。

 行きはなんだかよくわからないまま登ってきたが、帰りは心なしか楽だった。

 俺はそのあとなにごともなく、無事に一般校舎へと戻った。

 だが、なぜ俺が四階に誘われたのかなにも聞けずそのまま帰された。

 後日、詳しい説明をしてくれるそうだ。

 まあ、いまのこの状況であれこれ言われても頭に入らなさそうだし。

 




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