第146話 開放能力(オープンアビリティ)

 「あと言い忘れてたけど、【啓示する涙クリストファー・レルム】は夜目よめに影響しないから安心してね」

 「えっ? よ、夜目ってなんですか?」

 俺は聞きなれない言葉に反応した。

 会話に添えるようなニュアンスだから、そんな大事なことではないと思うんだけど。

 夜目? 夜目? そもそも、その単語がなんなのかわからない。

 「ん……? 開放能力オープンアビリティのこと」

 会話のリズムを崩してしまったようで、只野先生は渋い顔をしてる。

 これは知ってて当然の常識っぽい。

 「開放能力オープンアビリティってなんのことですか?」

 「それも教えてもらってないの?」

 「はい」

 「でも沙田くん夜目は使ってるよね? さっき眼球を診たからわかってるんだけど」

 「……? そう言われましても。……夜目ってどんな能力ですか?」

 「暗闇のなかでも日中のように物を見て行動できる能力」

 「あっ?! あれか。あれはできます。べつに隠してたわけじゃないんです」

 四階の闇で自由に動けたあの力か。

 あれってそういう能力だったんだ。

 九久津が照明スイッチを消したあとなのに、指先がはっきり見えたもんな。

 「じゃあ、やっぱり夜目を使ってるね?」

 「はい。そうなりますね。知らずに使ってました。すみません」

 俺が頭をさげようすると只野先生は手を広げて、やんわりと静止した。

 「いいよ。いいよ。教えられてないなら知らないはずだよ。沙田くんってあれかな、獅子は我が子を千尋の谷に落とすみたいな修行中なのかな?」

 「ど……どうなんでしょうか? 放っておかれてるような気も」

 「いいな。僕は憧れるな。期待されるがゆえの放置って。きっとキミは能力者として特別な存在なんだろう」

 「え?! 本当ですか?」

 俺はそういう待遇なのか……?

 けど校長は――キミをバス通学にさせたのはすこしずつアヤカシに慣れてもらうため。って言ってたな。

 どっか修行期間な気もするあながち間違いじゃないかも。

 「うん。なんかこれから、ますます強くなっていく主人公って感じかな」

 マジ?! いや、そう言われると照れるな。

 「おっと。つづきつづき開放能力オープンアビリティってのはね、ある能力者が開放していて、能力者なら誰でも使える能力のこと」

 「誰でも?」

 「そう。能力者による能力のトッピングみたいなもの。いくつか例をあげるなら、暗闇でも日中のような視界になる【夜目よめ】。能力者同士のテレパス効果を持つ【虫のしらせ】。亜空間を自由に使える【亜空間貸与あくうかんたいよ】など。ちなみにアヤカシなんかの気配を感じる能力は第六感としての基本能力だと言われている。だから霊感が強いという人は能力者としての潜在能力があるってこと」

 「へ~。僕が知らないことがたくさんありました。亜空間ってそういうことだったんだ。【ディメンション・シージャー】が貸しだしてるんですね」

 九久津に聞いた話に追加説明された感じだ。

 「そうだよ。あと重要なのは。そうだな~多国間能力者のあいだで必須な開放能力オープンアビリティの反バベル効果」

 「反バベル効果。バベルとはひょっとしてあのバベルですか?」

 「そう。反バベルってことで、どんな言語も瞬時翻訳されなんの隔たりもなく会話を成立させる能力」

 能力者はそんなオプションを当たり前に使ってたのか。

 けど、言語統一能力って学生にとってはまさに神の力!!

 ……いや瞬時翻訳されるだけで、別にテストに使えるわけじゃないか。

 ……ん?

 もしかするとヒアリングには使えるかも。

 「けど、反バベルは能力者の双方向効果だから。ひとりでは成立しない」

 だよね、だよね。

 心読まれた感じ。

 「反対にクローズアビリティっていうのがその人だけ・・の能力。ところで、そこにいるのは彼女さん?」

 ――そこにいるのは彼女さん……? そこにいるのは? 彼女さん?

 なんだそれ? そんな能力ある……わけ……ない……よな。

 只野先生は突然なにを言いだすのかと思って振り向くと、エネミーがなにくわぬ顔で話を聞いてた。

 でた?! シシャ得意の気配消すやつ。

 ――取材時の記者か?! ってツッコみたくなるようにうんうんとうなずいてる。

 あやとりに飽きたのかよ。

 まあ、診察終わって長話してる俺も悪いとは思うけどさ。

 「違います。この娘は新しいシシャです。エネミー勝手に入ってくるなよ?」

 「待ち疲れたアル」

 子供め。ただひとり好き勝手に院内を動き回らなかったことは評価しよう。

 エネミーはすこし拗ねると寄白さんのように頬を膨らませた、只野先生は――おっ!! という今日一番の驚きの表情をした。

 「じゃあ彼女が新しい。へ~この娘がね~」

 エネミーを興味深く見てる。

 六角市でシシャとは謎の存在だったのに、国立六角病院ここでは当たり前にみんな知ってる。

 それもそうだ、アヤカシから受けた魔障患者を相手にしてるんだから。

 「先生。うちちっぱいイヤあるよ。ちっぱいの向こう側に行きたいアル。できるアルか?」

 こ、ここここ、この娘はなんてことを、これもお国柄がなせる技なのか?

 エネミーは突然腕まくりをして両手を腰に当てるとぺったんこ(?)の胸元を突きだした。

 そのまま左右にぶんぶん体を揺らす。

 「どうアル? いけるアルか?」

 モデル歩きのように小刻みに体を振ってる。

 シシャなのをいいことに豊胸させようというのか?

 いけるって、い、いっていいのか。

 エネミー荒ぶる!!

 その行為に悪びれた様子もない。

 「それは型紙を作った人に言うといいよ」

 「そうアルか」

 型紙ってあの和紙か。

 只野先生は表情ひとつ変えずに冷静に答えた。

 さすがいろんな患者を診てるだけあって、対処法を心得てる。

 「……ん? その腕の痣どうしたの?」

 エネミーの肘の近くに小さい痣があった。

 太ももにもぶつけた痕あったな。

 エネミーはしゃぎすぎ。

 「ぶつけたアルよ」

 「そう」

 それから俺たちは三人ですこし学校の雑談して診察室をでようとしたときだった、俺はふと思うことがあった。

 いままでなんとなく訊いてはいけないと思ってたことだ。

 でも誰かに禁じられたわけでもない、どこかで勝手に心にしまってた。

 「あの……」

 「どうしたの?」

 「九久津っていう同級生が入院してるはずなんですけど。……どうしてますか?」

 「九久津くん? ああ、彼は僕の担当じゃなくて、あっ、そうそう、さっき名前がでた九条先生が担当だから。僕は詳しいことはわからないな」

 「そうですか」

 只野先生の抑揚のない返事はかえって俺を安心させた、九久津に関してなにかを隠してる気配はなさそうだったからだ。

 戦闘後の九久津もそんな酷い怪我をしてるようには見えなかったし。

 でも……素人が見た大丈夫と医者プロが診る大丈夫は、ぜんぜん違うんだろうけど。

 国立六角病院ここにきてから素人とプロに違いをこれでもかっていうほど思い知らされたし。

 「じゃあ、失礼します」

 「うん。気をつけて帰ってね。あと番号札は受付に返しておいてね」

 「はい」

 「わかったアルよ」

 エネミーも返事してるし。

 さあ、目薬もらってY-LABにいる社さんのとこ行くか。

 あとは校長への報告をいつするかだな。

 「処方箋も受付で受け取ってね」

 「はい。わかりました」

――――――――――――

――――――

―――




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください