第137話 魔障専門看護師

 アスという女の娘が処置室に運ばれていってから、十分ほどが経過った。

 ようやく慌ただしさが通り過ぎて、院内にまた平穏が戻ってきた。

 だが、俺はさらに待ち時間が追加された状態だ。

 看護師さんは廊下にバケツを置いて拭き掃除をしてる、床についたくすんだ赤茶色の汚れを一生懸命に擦ってた。

 あの娘の置き土産の、ケチャップとマヨネーズが混ざった足跡。

 色んな人が上から踏んだ、靴底の形がそこらじゅうにあった。

 廊下の汚れはきれいになっていくけど、まだハンバーガーの残り香がある。

 看護師さんが雑巾を絞ると、茶色の濁流のような水が勢いよく零れた。

 バケツは嫌な顔もしないで、それ受け止める。

 ナースシューズのをコツコツと鳴らして、疲れ顔の看護師さんがバケツ片手に俺らの前を通りすぎていく。

 さっきアスって娘の体を支えていた看護師さんだ、こんな状態のときに申し訳ないとも思ったが、俺はどうしても気になることがあったので声をかけた。

 「あの、すみません?」

 「はい」

 「さっきの女の娘の魔障なんですけど。病み憑き・・・・って言葉日常会話でも使いますよね?」

 「ええ、そうですね。日常でよく使う言葉のなかには魔障から派生した語源も多いですね。“病み憑き”もそうですけど“バチ当たり”とかもですね」

 看護師さんは疲れ顔から、一瞬で看護師・・・の顔に変わった。

 「えっ、罰当たりも?」

 「はい。由来はそこからきています。さっきの娘はアイドルらしくて、精神的に弱ってるところを付け込まれたんでしょうね」

 看護師さんは、ゆっくりとバケツを置き、あごに手を当てると井戸端会議する人

ように推理をはじめた。

 どことなく俺に話を聞いてくれと言っているような仕草だ。

 いや、その目は間違いなくそう訴えてる。

 「つ、つけこまれたとは?」

 「さっきの病み憑きの原因は呪詛性。たぶんアスちゃんの周囲に病み憑きの呪詛を与えた人物がいるじゃないか? という先生の診断です。しかも病み憑き以外にも、いぜんから呪詛をかけられている痕跡も見つかりました」

 「えっ……そ、そうなん……です……か?」

 の、呪われてたのか……。

 そっか、そういうのに対処するのが魔障専門医だもんな。

 「私はメンバーのなかに犯人がいるじゃないかな~なんて、ね」

 看護師さんは、興味津々という顔を見せた。

 なんか知らないけどメンバーかんの怨みこえー!!

 アイドルの闇が見えた。

 人気商売だし、まあ、いろいろあるんだろうな。

 ま、まさか、四季の四人が犯人とかって展開じゃないよな。

 そ、それはさすがにないか。

 あんなにいろんなメディアにでてるのに、二十四節気のメンバーに嫉妬するわけがない。

 「あっ、個人情報なのに言っちゃった。すみません。この話は内緒にしておいてくださいね?」

 「は、はい」

 「彼女さんもお願いね?」

 「わかったアルよ」

 彼女? エネミーのことか?

 ちゃっかり、俺の横に参上してるし。

 彼女と勘違いされた。

 どうする、俺。

 「言わないアルよ」

 彼女という言葉を否定しないのか?

 エネミーは目を擦って眠そうにしてる。

 また睡魔にでも襲われた……あっ、睡魔に襲われる……ってこれも……。

 「あの、すみません。睡魔って言葉も」

 「はい。その通りです。魔障由来です」

 「やっぱり!! 多いんですね。日常生活で使われてる、言葉」

 「ええ」

 現在、絶賛睡魔に襲われ中のエネミーを眺める。

 昼寝してないからな。

 まだ、生まれたばっかなのに睡眠時間足りてるのか?

 しかも深夜アニメまで観てるし。

 「さっきの娘治ったアルか?」

 重そうな瞼で、看護委さんにそう質問したエネミー。

 「もう大丈夫よ。ただ呪詛をかけた人間を特定しないと、また繰り返すでしょうね。そうなると慢性的に発病して生活に支障をきたしますけど」

 「大変アルな」

 「そうね。けど、呪詛をかけるってのは並大抵のことではないから。日頃から恨みつらみ。つまり大きな負力を抱えた人なんだろうと思います」

 「俺もそれなんとなくわかります」

 「日本じゃ、魔障の迅速診断できる病院はすくなくて、六角市には全国津々浦々から患者はひっきりなしにやってくるんです」

 看護師さんは、またすこしだけ疲労を見せながらも、国立病院ここがいかに凄いのかと、仕事のやりがいを語った。

 最後には自分が着る、スクラブの襟元に触れて汚れを見せた。

 それが自分の誇りらしい、看護師さんはいきいきしてる。

 その笑顔のままでまたバケツを手にとった、今日に限っては床を拭くことも大事な仕事だ。

 「へ~」

 さすがは国立六角病院だ。

 「あっ、沙田さん診察室の入り口でお待ちください。あともうすこしだけお待ちいただくかと思いますけど。ごめんなさい」

 「は、はい。でも、なんで僕が沙田だと」

 「あなたは有名人だから。すぐにわかりました」

 えっ、身元バレてる。

 なぜだ。

 番号札もだしてないぞ。

 「新人能力者。街の平和。よろしくお願いします!!」

 看護師さんは、そう言って俺にお辞儀をした。

 あ~そういうことか。

 じゃあ個人情報を言っちゃったってのは、俺が一般人じゃないから口をすべらしたのかも……。

 てか、すでに院内では顔バレしてるってことか。

 番号札の意味ないじゃん!!

 「は、はい。頑張ります!!」

 期待されることも悪くない。

 自分の存在が肯定される、そんなことを改めて感じた。




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