第135話 待ち時間

 俺は問診も終わりまた待合ロビーに戻った。

 Y-LABに入館してから、社さんと会話をするなかで、すこしだけ病院についても聞いてた。

 国立六角病院には魔障を専門に診る医師がいる。

 医師は国家資格である医師免許を保持したうえで、さらにさまざまなアヤカシの知識を持ってる。

 何万もある魔障の対処をするスペシャリストで呪術や霊障等の治療までもが治療範囲だという。

 国立六角病院はとくにすごくて【広域指定災害魔障こういきしていさいがいましょう】という複数人におよぶ、魔障にも対応できる病院だということだ。

 いまエネミーは大人しく俺の横に座ってる、すこし疲れたみたいだ。

 電池切れか。

 「エネミー。前例があるから言うけど今度はブラックアウトしないでくれよ?」

 「大丈夫アルよ。雛がついてるアル」

 エネミーはすこしウトウトしはじめた。

 「そっか。社さんがそういう役なんだ」

 「そうアルよ」

 エネミーはそう答えると、眠そうだった目を爛々らんらんと輝かせて、社さんの好きなところを、これでもかっていうくらいに語りはじめた。

 熱い飲み物をフーフーしてくれるところ、クリームは多いほうをくれるところ、エビの皮をむいてくれるところ、ツインテールの髪を結ってくれるところ、日常生活で起こるさまざまなことだった。

 もう二人は姉妹じゃないかってくらいの関係だ。

 仲良すぎ。

 社さんは、あんな感じだから外ではそんな素振りを見せないだけなんだろうな。

 それになにかを抱えてる気がするし。

 俺を気づかってくれたときも優しかった……。

 「けどさ蛇ってやつにも気をつけないと。前のシシャは蛇にそそのかされたって校長が言ってたし」

 「うちはその正体知ってるアルよ」

 な、なんだと?

 なぜそんな重要なことをエネミーが知ってるんだ。

 「マジで? 誰?」

 「そいつはな。必ずメガネが光るアルよ」

 エネミー両手で望遠鏡のような形を作ってメガネを表現した。

 その状態で左右に首を振って周囲を見回す。

 「なにそれ?」

 「深夜アニメで見たアルよ。自分うちは有料アニメチャンネル(アニチャン)入ってるアルよ。あのな~怪しいやつはレンズがベタ塗りになって、そのあとに口元がニヤってなって、最後にレンズがキラリするアルよ」

 有料チャンネルって本気すぎだろ。

 俺もアニメ好きだけどさ、さすがにそこまでしてアニメを観たりはしないな……。

 エネミー、スゲーよ。

 テレビ娘とアニメっ娘か。

 ただアニメが好きかどうかと、推理の信憑性はぜんぜん別の話だけどな。

 「それなら犯人候補はメガネをかけたやつだけじゃん?」

 メガネを外した時点でそいつは容疑者じゃなくなる……それはアニメにおけるただの演出技法だよ。

 エネミーにクールジャパン炸裂中!!

 「間違いないアルよ」

 どうして、そこまで自信を持てる?

 「なら蛇はメガネをかけてるってことか?」

 「そうアル。メガネ蛇アル」

 なんかそういう種類の蛇がいるみたいだな。

 メガネ猿的な。

 「けどそれで本当にわかるのか?」

 「わかるアル。追いつめるアルよ」

 「どうやって?」

 「一緒にマラソンを走ればいいアルよ」

 「えっ? なぜ?」

 「――一緒に走ろう。って言って、そいつがどこかでひとりで走ってたら、犯人アル」

 ひとりで走ってたら犯人アルっていうか、ふつうの学生あるあるだよ。

 ―― 一緒に走ろうね~。

 ―― 一緒にゴールしようね~。という、すぐに破綻する桃園とうえんの誓い。

 「あれは大抵どっちかがバテて失速してくだけだ。それを裏切りだなんておかしい」

 「その方法じゃ犯人探せないアルか?」

 「ダメだろうね……」

 「はぅ!!」

 「ショックか?」

 「……致し方ないアルね」

 エネミーは軽くヘコんだ。

 ちょっとかわいそうになったけど、そんなことでヘコたれるエネミーじゃなかった、ここからエネミーはアニメについて熱弁をふるいはじめた。

 「うちな片目だけ包帯グルグルしたいアルよ。あれカッコいいアルな」

 「えっ……と」

 エネミーは生まれて数日でもう中二病を発症した。

 予防接種をしてもらわなかったんだろう。

 ついでにここで診察を受けたほうがいいんじゃないか、と思ったが、俺にだって、そのはなきにしもあらずだった。

 なんたって転校してきたまさにその日、≪包帯を巻いてなにかを封印してる系統。または眼帯で眼になにかを飼ってる系もあるな……≫と自己演出を考えていたくらいだからな。

 俺だけじゃなくたいていの中高生にはあるんじゃないか、非現実に憧れて非凡な能力に憧れる……と言いながら俺は覚醒したけどな、フフフ。

 ただ覚醒とも違うような気がする、俺はもっと前、いや、むかし? ちがう……太古からなにかの能力を使ってたような気がする。

 「かっこいいアルよな?」

 「か、かっけーな。あれは」

 エネミーはしばらく日本のアニメや漫画について語った。

 だからあの道路工事中っぽい今風イラストが好きなのか。

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 その頃寄白は六角市のとあるところにいた。

 ベンチの上に置かれた黒いノートが瘴気を放ちはじめる。

 「あんたはもう死んでるんだ」

 寄白はジリリと間合いをつめた。

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