第134話 聴取

 院内にある小会議室。

 小さな部屋でありながらも防音設備が施され整理整頓された部屋だった。

 長テーブルを対面にして九条は看護師長に席を勧めた。

 「さあ、師長どうぞ座ってください」

 「あっ、はい、ありがとうございます。それで私に用とはなんでしょうか?」

 「今回伺いたいのは、十年前九久津堂流という患者が搬送されてきてから、オペ室で起こった出来事についてです。記憶に残っていますか?」

 「はあ……。私が覚えてる限りのことはお答えしますけど……」

 九条が過去手術に立ち会ったスタッフを探すという点で見つけたのが看護師長だった。

 (やはり師長は立ち会っていたか)

 「お願いします」

 「……でも十年も前のことですし、記憶が曖昧になっている部分もあるかと思いますけれどそれでもよろしいでしょうか?」

 「ええ大丈夫です。覚えてる範囲内で」

 「わかりました」

 「まずオペを仕切っていたのは誰ですか?」

 「主治医という意味なら四仮家先生でしたよ」

 (やっぱり四仮家先生か?)

 「記憶に残っている範囲で構いませんので、オペの手順を詳しく教えていただけますか。あとそのときに感じた、疑問や不審な点などがあればそれも……」

 「手順ですか。えーとルート確保からはじまって、あとは教科書通りの対応でしたよ。あの状況できることなんて限られていますしね」

 「そうですね。経皮的心肺補助装(PCPSピーシーピーエス)は回してましたか?」

 「ええ。回していました。スタッフ全員で懸命に蘇生の処置を試みましたが、その甲斐も虚しくという……結果に……」

 「PCPSでなにか変わったことはありませんでしたか?」

 「PCPSで変わったことですか? いえありません。通常通りに送血して脱血ですね。ただ創傷そうしょうも大きく、毒が強力でみんなの士気がすこし下がったのを覚えています。そこを四仮家先生が必死で鼓舞していました」

 「そうですか」

 「ですからオペ中に変わった出来事なんてありませんでした。そういう意味では不審な点も思い浮かびません」

 「そのあとは?」

 「あっ?!」

 師長は思いだしたように声を上げた。

 「なんですか?」

 「えっと、そのオペは上級アヤカシの魔障対応ケースの資料になると言って録画していたはずですよ。四仮家先生のご提案で」

 「本当ですか?」

 (映像が残されてるのか。ツイてるな。あとで観てみよう……けど、それじゃあ……)

 九条がそう思うのも無理はなかった、もし四仮家が血液を持ち去った人物だとするなら、そんなヒントを残すことにもなりかねない映像を残すのかという疑問だ。

 「ええ。九条先生もご覧になれると思いますけど」

 (四仮家先生の希望で録画映像を、か……? やはり辻褄が合わない)

 「では、のちほど観てみます。ほかに記憶に残ってることはありませんか?」

 「ありますよ」

 「なんですか?」

 「九久津さんの奥様の落ち込みようと言ったらそれはそれは」

 「……それは息子さんを亡くされたならそうですよね」

 「ええ。ただタイミングがおかしかったような気がします。もちろん、これは私の感じかたなのですが……」

 「タイミングとは?」

 「四仮家先生が九久津さんのご両親に堂流さんの状況を説明なされたのですが、奥様はそこで尋常じゃないほどの勢いで雪崩なだれ落ちて」

 「察するに余りあります」

 (我が子の死だ。それはありえる)

 「私もそれは感じました。ただ具体的な状況なのですが、それは四仮家先生が堂流さんの背を見せてバシリスクの牙と毒の浸潤についての説明しようとしたときなんです」

 「えっ?! 背中を。それは右脇腹の?」

 「はい、そうです。九条先生ご存知なんですか?」

 「ええ。ボクも写真の画像では確認していますから」

 (あの不自然に引っかいた傷か。なにかを消したような……もしかして九久津家の両親はあの傷の理由を知ってるのか?)

 「そうですか。ご覧になられてたんですね。九条先生も違和感を覚えられましたか?」

 「違和感……ですか? なんの」

 「あのとき四仮家先生が仰ってたんですが、堂流さんの毒の浸潤個所が広すぎると」

 「毒の?」

 「九久津堂流さんと言えば救偉人の能力者として有名でしたし。多くのかたがその実力を認めてらっしゃいます。そんな能力者ひとが被毒をしても、あそこまで毒は広がらないんじゃないかという見解でした」

 (四仮家先生もボクと同じ印象を抱いてたっていうのか?……そんな人が果たして毒を抽出して、九久津堂流の弟である九久津毬緒に毒を渡すだろうか? 録画の件といい、四仮家先生は真摯に医療行為をしてるじゃないか?)

 九条は自分の予想が綻びはじめたことを感じる。

 端からポロポロと推理の欠片が崩壊していった。

――――――――――――

――――――

―――




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください