第133話 国立六角病院

 俺は社さんとの話しを終えて、さっそく国立六角病院へと向かう。

 エレベーター横の施設案内を見ると、国立六角病院の八階はVIP階となってた。

 ああ、なるほどアヤカシの知識はあるけど、身分的には一般の人間は進入禁止ってことね。

 だから八階は通らずに七階を通れと。

 VIPルームはさぞかし豪華なんだろうな。

 メロン天国、スイカエリシュオン、桃エルドラド、苺ユートピア、果汁大衆浴場のフルーツパラダイスってとこだな。

 七階に上がって、龍が口を開いたような連絡通路を歩いてると、院内施設が見えてきた。

 へ~ここか~。

 こういう作りだからY-LABのなかに病院があっても一般人にはわからないのか。

 まあ一般人は関わることがないから問題なしだけど。

 そして七階本館とともにエネミーも見えて……き……た……。

 な?! なぜ、エネミーがここに?

 「遅かったアルな?」

 「なんでここに? 先回りしたのか?」

 「違うアルよ」

 「じゃあ、なぜ?」

 「迷子になったアル」

 これだし。だし!!

 予想するにエレベーターを楽しんでるうちに、自分がどこにいるのわからなくなったってことだよな。

 「いわゆる方向性の違いアルね」

 「方向違い・・じゃなくて。方向の間違いだよ」

 「そうとも言うアルな」

 迷子になったエネミーに、ひとりで帰れと言ったところで無事に帰れるわけがない。

 しょうがない、連れてくか。

 受付は一階だ。

 院内はぜんぜん病院になんて見えなかった、それどころかアミューズメントパークのように華やかで未来的だった。

 俺の勘が働く、ここも当局の手が入ってるだろう……なら、きっと近衛さんのデザイン。

 近衛さんなら絶対になにかの意味があっての外装だ。

 外から見ると窓なんてひとつもなかったのに、院内には燦々と太陽の光が注いでる。

 どういう仕組みかはわからないが、マジックミラーのような原理なのかもと勝手に思った。

 俺とエネミーは受付に行くため、ふたたび国立六角病院の一階へと向かう。

 と、その前にこの状況を社さんに電話しよう、あっ、院内は圏外だ。

 ならチャットアプリで一報を。

 これならどこかで電波が入った時点で要件を伝えられる。

 エレベーターの手前ところで社さんから返事がきた。

 ここは電波があるのか。

 Y-LABと院内では、ある特定の場所でだけ電波が入るようになってるみたいだった。

 社さんはやっぱり俺にエネミーを託してY-LABのほうで待ってるという。

 病院に近づきたくない理由があるのは間違いない、まあ人にはいろいろ事情があるし……お、俺と同じで病院怖い系か? それならわかりすぎるほどわかるよ。

 エレベータに乗ってほんの数十秒、階数表示が一を示した。

 「バイブス、ヤベー!!」

 エネミーはまた同じことを言ってる。

 どうやらエレベーターに乗ったときに感じるあのフワっとした重力がエネミーにとってのバイブスらしい。

 扉が開いたと同時に受付を探す。

 どこだ? ここからじゃよく見えない。

 エネミーは手で傘を作って遠くを見ようとしてるが、あれは日の光を遮るためであって双眼鏡のように遠くが見えるわけじゃない。

 「受付どこアル?」

 しかたがないからまた案内板を確認する、院内地図は必要最低限の長方形や正方形のピクトグラムで描かれてた。

 色も数色だけでスゲー見やすい。

 目に優もしい、きっとそういう配慮で作ってるんだ、案内板の中央に“受付”の文字が見えた。

 ここか。

 院内すべての間取りに目を通す。

 病院の奥まった場所にかなり大袈裟な“関係者以外禁止”マークがあった。

 なんかヤバそうな部屋だ。

 果たしてこの部屋でなにが行われてるのか……。

 なんか幽霊的なのが出現すんのか?とさえ思えた。

 受付に向かってすこし歩くと、待合ロビーには温かみのある色の長ソファーが無数に並んでた。

 患者がポツポツと腰をかけてるけど、どの人を見てもふつうの人だ。

 六角市にはこれだけ国立病院にかからなければならない市民がいるってことか。

 いや市外からの患者もいるかもしれない。

 よく考えれば、俺は授業が終わってからきたから患者のピークは過ぎてる頃だと思う。

 閑散としていた受付窓口に向かい、つぎの手続きを済ませる。

 もちろんエネミーも俺のあとについてくる。

 俺とエネミーは二人分のVISITORのプレートを返却して、代わりに受診用の番号札をもらった。

 まず簡単な問診などをするからと個室に案内された。

 なかに入ると看護師長というボスがきて、いまの症状について訊かれた。

 俺は目の症状について正直に答えてると、戸村伊織さんという美人看護師さんが入ってきた。

 内心ラッキーと思う。

 この看護師さんなら、注射の痛みにだって耐えられるはずだ。

 俺、注射に弱し。

 なぜ名前を知ってるかというとネームプレートにそう書いてあるからだ。

 美人は美人だけど、その振舞いが“出来る看護師”に思えた。

 「あっ、すみません師長。九条先生がなにかお話しを伺いたいとのことですので、あとは私が代わります」

 「そう。なにかしら」

 「私にはちょっと」

 「じゃあ戸村さん。お願いしていいかしら?」

 「はい大丈夫です。師長の夜勤明け休みが終わるまで、待っていたそうですよ」

 「あら~そうなの。じゃあ行ってくるわね」

 「はい」

 看護師さんたちはなにやら忙しそうだった。

 けど患者のために頑張ってるんだろうな。

 Y-LABの研究者たちと同じように。

――――――――――――

――――――

―――




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください