第132話 研究所

俺たちは表の入り口からではなく裏の関係者入り口から入った。

 表玄関は一般者入り口だからだ。

 見学なんかの人たちはもちろん表から入る。

 俺たちは一般・・ではないってことだ。

 研究所というくらいだから薬品のようなニオイがするのかと思ったけど、ふつうのニオイだ。

 図書館とかのニオイに近いかな。

 いやむしろ新築のように真新しいニオイがするってこの表現は伝わりづらいかもしれない。

 清潔感溢れる部屋に足を踏み入れると教室くらいの広さだった。

 制服を着た警備員がひとり立ってて不審者に目を光らせてる。

 後ろで手組みながらも、一定間隔で左右を確認する、その真ん前をスーツ姿の人や、白衣を着た人が大勢歩いてった。

 奥にはガラスの衝立があって、そのさきを見渡すと吹き抜けになってる。

 最上階がなん階なのかわからない。

 各フロアには大人の腰辺りまでの高さの落下防止用フェンスが壮大に広がってた。

 フェンスの奥にはたくさんの部屋の上部だけが見えた。

 これぞザ・研究所って感じだな~。

 衝立の真ん中の扉を開いて、研究所の本館に足を踏み入れる、ひと際目立つところに受付があった。

 おもいっきり受付と書いてある。

 社さんが小窓を小さくノックした。

 ――コンコン。と乾いた音がした。

 「すみません。社と申しますが」

 白髪交じりのおじさんが受付窓を開いて、社さんと会話をはじめた。

 社さんが詳細を話すとVISITOR書かれた首から下げる、プレートを三枚手渡されてた。

 社さんの口振りからするとある程度の話はついてたようだ。

 俺たちは首からPASSパスをさげる。

 これがあればこの施設のたいていのところには行けるらしい。

 いつかノーベル賞でもとりそうな人たちが施設を歩いてる、いやほとんどがそんな人たちだ。

 「どうだろう。こんどは縦じゃなく横からアプローチしてみたら」

 「皮膚を縦の層からではなく横の皮膚に色を合わせるのか」

 「ああ。そうすれば表面上は魔障の黒色くろが消える」

 「横の肌の色と同化させるってことか」

 「なるほどな」

 「結界の反作用で負った魔障の色を元の色に戻せるなら、六角市の協力者のかたも喜ぶだろう」

 「ティラピアを使った生物模倣バイオミメティクスを応用すればいいんじゃないか?」

 「おお。それは名案だ!!」

 ああ。あの運転手さんの手の魔障か?

 魔障という単語が当たり前にでてて、ここがふつうとは別の世界なんだと改めて感じる。

 しかも国立六角病院も併設してるわけだし。

 いつか九久津が言ってた――まあ魔障に対しては救護部隊が日々、治療方法を研究してるけど。――って、あれはY-LABのことだったのか。

 ここで研究して薬品を作ったりしてるんだ。

 研究者が話してる内容もアヤカシに関することが多く隠す素振りもない、VISITORとはそういうことなんだろう。

 ここにいるすべての人にアヤカシの知識があることを最低条件にしてる。

 たとえばここで人体模型が走ってきても誰も驚かないんだろうな。

 いや、驚くには驚くだろうけど、すんなりと受け入れるだろう。

 どういう理由で人体模型が走るのかがわかってるから。

 白衣姿の人は俺たちには目もくれずに通りすぎてく。

 VISITORをさげてれば、それは入館許可の証拠だから、研究者たちも怪しんだりはしない、俺たちを認めてるってことだ。

 社さんはふたたびさきを行く。

 俺は社さんに国立病院について軽く説明してもらった。

 すこしだけど、おおまかなことは理解できた。

 エネミーはまるで親のあとをつく子供のように社さんの制服をつまんでキョロキョロしてる。

 「はぅ!」

 辺りを見回してはすこし大げさな声を上げる。

 なんでそんなちょこんとつまむんだよ、もっとしっかり掴めばいいのに。

 「Y-LABには六角市の解析部隊と救護部隊が常駐していて、なにかのときにはここから現場に行くのよ」

 「へ~そうなんだ」

 じゃあシシャの反乱のあともここから出動してきたんだ。

 社さんはそこで片手を上げると、俺に手のひらを見せた。

 “止まれ”の意思を示してるんだろう。

 「沙田くん。ここですこし待っててくれる?」

 「あっ、うん」

 「エネミーをお願いね」

 俺はエネミーを託された。

 「わかった。しっかり見張ってる」

 「雛。どこ行くアル? すぐ帰ってくるアルか?」

 ほんとの子供みたいじゃねーか。

 母親がすこしだけ家を空けるときの子供の表情に近い。

 エネミーは聞き分けよく、社さんの制服から手を放した。

 社さんはまた別の場所に向かって歩いてった、まだなにかほかの手続きが必要なのかもしれない。

 俺があちこちを観察していると、エネミーはいまのいままで不安そうにしてたのにアクティブに活動してる。

 元気になるの早えーな。

 なにをするのかとおもいきや、開いたエレベーターに一目散に駆けこんだ。

 ゆっくり閉まるドアがエネミーを上階へと運んでく。

 俺は黙って階層を表す表示パネルを眺めてた、二階、三階と数字が上昇する。

 上は何階まであるんだ?

 スゲー十階まである。

 吹き抜けから見上げたときも、ものすごく高かったからな。

 もちろん社さんにエネミーの面倒を頼まれた手前そのまま放ってはおけない。

 だからエネミーが降りてくるのをしばらく待つ。

 なんなら俺もほかの場所を見学したかったんだけどな。

 そのあいだ俺はエレベーター周辺に留まりながら施設を見渡した。

 この場所から動けないんじゃ、さすがに館内も見飽きてきた、仕方がないからスマホをとりだす。

 圏外だ、しょうがないか施設内だし。

 約五分後にエネミーは降りてきた。

 そして俺に近づいてきて、俺の手をとった、こ、この手の感じも寄白さんに似てる。

 「バ、バイブス、ヤベー!!」

 エネミーは降りてきて、開口一番、上機嫌にそう言った。

 発音がネイティブだし謎の感度を持ってる。

 エネミーは間違いなくエレベーターを楽しんでた。

 「どういう意味だよ?」

 「バイブスは意味じゃなく感じるものアルよ!!」

 エネミーはプロエレベーター(?)か。というほど、熱弁を繰り広げると――つぎ。と言って、いまはBちかのボタン連打してる。

 はしゃぎすぎ。

 アトラクションじゃねーぞ、ここは!!

 「マジ。バイブス、ヤベー!!」

 エネミーは地下へのエレベーターに乗り込んだ。

 入れ替わるように、社さんが身振り手振りで俺の元へとトコトコ歩いてきた。

 なんとなく険しい顔つきだ。

 「沙田くん。ごめんなさい。私はここまで、あとはひとりで行って。もしくはエネミーと。エネミー、沙田くんになついてるみたいだし」

 「えっ? あっ、うん。わかった」

 「病院の受付はしてあるから、そこのエレベーターで七階に上がって、連絡通路を通って院内に入って。絶対に八階は通らないでね」

 社さんはすこし顔をしかめて宙を指さした。

 その方向に八階があるんだろう。

 なぜ社さんが病院に行けないのかわからないけど、理由は聞けない。

 さっきのこともあるし、女子に踏み込んだ話は聞けないよな。

 「あっ、俺はひとりで大丈夫だよ」

 ともあれ俺はもうすでに受付されてるそうだからこのまま行こう。

 「そう。じゃあエネミーは連れて帰るから……エネミーはどこ?」

 「なんかエレベーターで遊んでるけど」

 「ふ~ん。私はエネミーが戻ってくるまで待ってるわ」

 「エネミーってなんか寄白さんの性格に似てるね?」

 「美子? まあ美子の負力がエネミーに流れてるんだから、性格や個性もずいぶんと受け継いでると思うわ」

 や、やっぱり!! 似てるもんな。

 本来の寄白さんもあんな感じなのかな……?

 ツンツンと不思議っ娘の中間点。

 「でも真野絵音未は外見以外寄白さんとは似てなかったけど」

 「ああ。それは美子の個性も受け継ぐけど。シシャにもシシャの個性があるのよ」

 「独立したひとりの人格ってこと?」

 「そうね。だから真野絵音未は元から大人しい娘だったってこと」

 「そっか。じゃあ行ってきます」

 「うん。沙田くんの魔障はそんなに酷くないと思うからあんまり心配しないで」

 「あ、ありがとう。じゃあ、行ってくる」

 「ええ」

 社さんも案外優しいな~クールだけど。

 気づかってくれてるんだ。

 勇気づけられた。

 誰かが励ましてくれるっていいな!!

 同時に孤独って怖いなという気持ちも湧き上がる。




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