第131話 Y-LAB(ワイラボ)

 

ここからすこし小さな坂を登ると、小高い山の上に例の研究所がある、社さんはそこに向かって歩きはじめた。

 ローファーがコツコツと音を立てる。

 やっぱり目指してる場所は、あの大きな研究所だ。

 なんとなく声もかけづらい。

 俺はもくもくと歩き、社さんの後を追った。

 社さんは美人で綺麗なんだけど、どこか他人との壁があるというかなにかを抱えているというか……。

 その点エネミーは落ち着くわ~。

 まあ、またエネミーの社会見学でもするんだと思って、俺は深く考えることを辞めた、そして黙ってあとにつづく。

 学生が見学に行く場所だし、そこでエネミーがなにかの学習をしても問題ないよな。

 赤ちゃんっぽいとは言え言葉も話すし、そこそこの常識もあるし。

 街から外れてるだけあって、この辺りでも自然の匂いがする。

 舗装の脇には名前はわからないけど青々とした草と九久津の家に行く途中で見た花が咲いてた。

 花弁の先端が矢のように尖った青紫の花が。

 最近この花をよく見かける、じつは外来種とかいうオチだったりして。

 そんなに時間がかかることもなく、山研が見えてきた。

 山の研究所は市営体育館の何十倍もありそうな施設。

 それなのに窓ひとつなく密閉された作りになってる、光を遮断した建物って不便じゃないのかと思う。

 機能的にもどうなんだろうという疑問もあるが、研究所ってそんなもんなのかとも思う。

 日光によって変化しそうな薬品とかもありそうだし。

 ようやく入口の門が見えてきた。

 頑丈な金属の柵の奥には、たぶん職員さんたちのであろう車が無数に駐車されてた。

 そういや鈴木先生も新車を買ってから機嫌がいい、車ってそんなにいいものなのか?

 あと一年もすれば俺たちも免許をとれる、そしたらそんな気持ちもわかるか。

 社さんは門を越えてなかへ入ってった、ちょこちょことそれにつづくエネミー。

 へ~山研の正式名称って【Y-LABワイラボ】っていうのか。

 “Y”と“L”が合わさる、立体化されたピクチャーロゴがあった。

 俺は今日初めて山研の正式名称なまえを知った。

 六角市にいてこんなことも知らなかった、たぶん市民の大半もこのことは知らないだろう、だから通称山研なんだから。

 ロゴの下には“Y”と“L”を飾るように、小さなローマ字がある。

 これが完全・・な正式名称か。

 Y、ワイ、O、オー、R、アール、I、アイ、S、エス、H、エイチ、I、アイ、R、アール、O、オー……そして、すこしスペースがあって、L、エル、A、エー、B、ビー、O、オー、R、アール、A、エー、T、ティー、O、オー、R、アール、Y、ワイか。

 ――“YORISHIRO LABORATORY”

 えっと。ヨリシロ? ヨリシロラボラトリー?!

 えー?! こ、ここも寄白さんの会社だったのか? Y-LABワイラボって、そっかヨリシロの頭文字でYか。

 LABラボはラボラトリーの短縮形。

 だからワイラボなのか。

 俺がひとりロゴの前で立ち止まって心の整理してると、社さんの一言がまた俺を混乱させた。

 「なにしてるの? ここが国立病院よ」

 こっちを振り向く社さん。

 どうやら冗談ではないらしい、てか社さんがそんな冗談を言うはずもない。

 あの表情は逆になにがそんなに不思議なの?って感じだ。

 「こ、ここが?」

 俺はY-LABのロゴを指さした。

 ロゴは立体的でデカデカと存在を放ってる。

 いままで山研と呼んでいたことが申し訳なくなった。

 市民のあいだでは山にある謎の研究所のために、どうしても怪しげなニュアンスが混ざって、すこしだけ小バカにした感じになるからだ。

 「そうよ。Y-LABここのなかに院内施設があるの」

 「うそっ!?」

 社さんが冗談を言わないとわかってても、つい口からでてしまった。

 「本当よ。嘘をつく意味もないし」

 マジか!!

 俺は足早に社さんとエネミーのもとに駆け寄った。

 「なにしてたアルか?」

 エネミーが腰に両手を当てて膨れっ面になってる。

 そして――もう。っと付け加えた。

 「いや門の前のロゴを見てた」

 「結局は国立病院も第三セクターってこと」

 社さんはツンとした感じで腕を組んだ。

 「えっ……」

 第三セクターって現代社会げんしゃの授業で習ったな……けどなんだっけ?

 わからなかったらハズいぞ。

 第三セクターね……第三、第三ってなんだ?

 第一と第二はどこにいった。

 なぜ三からはじまる?

 「沙田。第三セクターってなにアルか?」

 こ、こんなときにそれを訊くか?

 エネミーめ。

 俺が心のなかであたふたしてるのを知ってるのか。

 「えっと?! そ、それは」

 「なにアル?」

 それにしても見計らったようなタイミングだな。

 ヤベーな、わかんねー。

 第三ってことだから秘密兵器的なやつか、それっぽいぞ響きが。

 「ここは民間企業の株式会社ヨリシロと国が共同運営している研究所と病院。つまり半民半官はんみんはんかんの施設ってこと」

 社さんがエネミーに教える形で俺は難を逃れた。

 は~だから国立病院って名前なのか、そりゃあ一般には浸透してないはずだ。

 そもそもアヤカシに関係ない人が行くことがないんだから当たり前か。

 ……なるほどな~一般社会のなかに紛れ込ませてたんだ。

 寄白さんや九久津にしてみれば、ここが病院って当たり前の知識だからな。

 毎度のことながら株式会社ヨリシロはアヤカシ対策の街づくりをしてた。

 あっ、国営だから、国、つまり当局もだ。

 「そ、そういうことだ。半民半官だ。わかったか? エネミー?」

 ふつうにエネミーって呼んだけど違和感はないか。

 「ホントに知ってたアルか?」

 会話になんの障害もなく、ふつうに話はつづく。

 「し、知ってたに決まってんだろ。いつだったか現社で習ったし、お、俺も、もう高二だぜ」

 「嘘っぽいアル」

 エネミーは最後まで俺を疑った。

 いや、ま、まあエネミーの疑いもあながち間違いじゃないけどさ。

 わ、悪そうな顔で俺を見てる……が、そんなことには負けん。




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