第129話 佐野和紗(さのかずさ)

俺は社さんとエネミーの二人、つまりちょいハーレム状態で南町行きのバスに乗った。

 駅が始発の車内は客で混雑してる、俺は後部座席の真ん中に、二人は俺の左斜め前に座った。

 転校してから南町のほうに行くことはあんまりなくなったけど、数日前に例の廃材置き場に行ったからそれほど懐かしくもない。

 しばらくは車内でひとり大人しく座って過ごした、郊外に近づくとやっぱりソーラーパネルがたくさん設置されてた。

 黒いパネルはギラギラの太陽を吸収し貯蓄してる。

 理由を知ってる俺からすれば、このシステムには心から感謝できた。

 アヤカシから市民を守るエネルギー源になってるんだから、まあ太陽の光にも感謝だけど。

 街の中心から離れるたびに乗客は減っていった、いまはこの席から社さんと会話できるくらいには空いてる。

 「沙田くんって。佐野くんのこと知ってるの?」

 通路側に座る社さんがこっちを振り向きそう言った。

 「えっ、佐野?」

 驚いた、まさか社さんの口から佐野の名前がでるなんて。

 けど考えてみれば、半年前まで一校にいたんだから、佐野のことを知ってても不思議じゃない、俺たちみんな・・・同学年だし。

 俺、寄白さん、九久津、社さん、エネミー(?)、それに佐野も。

 なんだこの選ばれし世代感。

 「佐野がどうかしたの?」

 「さっき駅前にいたから、もしかして一緒にきたのかなとか思って」

 エネミーの言ってた、社さんが探してた友達って佐野のことか。

 佐野、今日この時間駅にいたんだ、なんか用事でもあったのか?

 バシリスクが現れた当日身内に不幸があったんだよな、その関係でまた出かけるのかも。

 「いや佐野がいたなんて、ぜんぜん知らなかった」

 「そう。じゃあ別の用件かな」

 「じゃないかな。社さん二校に転校する前佐野と仲良かったの?」

 「う~ん。仲が良いというか馬が合うっていうか。なにか不思議な縁のような」

 「へ~」

 佐野とね~、てかほかの男子じゃ社さんには近づけないよな。

 佐野ってなんか自然体なんだよな、俺が転校したときも隣の席でなんとなく話すようになって、なんとなく友達になってって感じだし。

 掴みどころがないんだよな、あいつ。

 「そういえば、俺が寄白さんと九久津に塩入れられたとき、佐野に助けてもらったな。弁当の海苔の下に塩があるってすぐ気づいてたもん」

 「ほんと? ふ~ん。私がたまに塩をあげてただけのことはあるかな」

 「塩を? あのみんな持ってる。マイ塩?」

 「ええ。神社うちは特性の塩を作ってるから」

 「そっか、家神社だもんね?」

 「ええ」

 途中でいくつかの停留場で止まりながら、バスは現在進行形で南西方向へと向かってる。

 席が空いてきたから俺は後部座席の一番右にずれて座った。

 エネミーは社さんの逆側、つまり俺の前の席に座ってる。

 自由に席を選べるほど車内はスカスカになってた、それはバスがずいぶんと距離を走ったことを示してる。

 六角第二高校は南町の西側にあるため、社さんとエネミーはわざわざ一度六角駅にきてまた戻ることになる。

 はっきり言って二度手間だと思う。

 「また南町に戻るなら俺から行ったのに」

 「ううん、いいの。美子がドタキャンしただけだし。エネミーの社会勉強にもなるから」

 社さんはまるで保護者のようにそう言った。

 エネミーはエネミーで窓ガラスに貼りついてオーバー気味に周囲の物に興味を示してる。

 ときには顔芸なのかというほどに大袈裟に驚く、それは子供向け絵本の表紙にありそうなほど大きな表情だ。

 そしてたまに束ねられた遮光カーテンをフェイスリフトのように顔の輪郭に巻き揺れてる。

 「ああ~揺れるアル~よ」

 この行動に意味なんてない、いや意味のないことをして勉強してるんだ。

 じっさい寄白さんってなんの用事なんだろう……? まあ、いまは忘れよう。

 「そっか。そういう理由なら」

 「エネミーには学習が必要だからね」

 そういう意図もあったのか、エネミーはなにもかもを楽しそうにしてる。

 それもそうか、見かけは高二を装ってるけど、つい最近生まれた赤ちゃんみたいなもんだ。

 吸収も早いが、その分ちょっとおかしなモノまで取り入れてしまうってことなんだろう。

 それが性格とか言葉に反映される。




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください