第128話 保護者

「オーイエス!!」

 エネミーが大声を上げた。

 それは悲鳴というようなものではなく、喜んだときに上げるニュアンスの声だった。

 ただ発音はネイティブだ。

 「なに、どうした?」

 お、俺はなにもしてないぞ。

 エネミーはここからすこし離れたビルの下にある看板を指さしてた。

 た、短足じゃなくて、赤ちゃんっぽい短めの指先がピンと伸びてる。

 その方角に視線を向けると、黄色に白ぬきの看板のど真ん中に、イケメンイラストが描かれてた。

 イラストはいまふうなのかビジュアル系男子の絵だ。

 まんま女子向けソシャゲ風。

 看板のなかには本来の目的である「道路工事中」という漢字がデカデカと書かれてる。

 あの『痛い看板=痛看いたかん』がどうかしたのか?

 「あ・た・し。好きアルよ」

 「な、なにが?」

 「どうろこうじ・ちゅう <3」

 エネミーが腐女ふじょった。

 “うち”が“あたし”に変わった。

 エネミーは看板のなかに書かれてる「道路工事中」をそんな人物がいるかのようなイントネーションで呼んだ。

 「あれは道路工事中どうろこうじちゅうね。あのイケメンくんの名前じゃないから」

 俺はきちんとしたイントネーションで読み上げた。

 「そうアルか?」

 「そうだよ」

 「残念アルよ」

 駅前って繁華街だから、いつでもどっかでなんかの工事してるんだよな。

 どんだけ穴掘んだよ。

 いつまでも完成しない駅それが六角駅。

 いや、いつまでも進化し続ける駅六角駅。

 地下になにか……あっ、俺は気づいてしまった、そうだ、そうに違いないジオフロントだ。

 この下はジオフロントになってるに違いない。

 駅前の信号付近で、ひときわ大きなザワメキが起こった。

 「……ん」

 なにがあったんだ……?

 まだざわつきが収まらない、特に男がざわざわしてる。

 あっ?!

 すぐに理由がわかった、なぜなら社さんがこっちに向かって歩いてきてたからだ。

 ここから見ても美人だけど相変わらず人らしくない感じもする。

 第三高校で真野絵音未が現れたあの感覚に近い、そう言えばエネミーに会ったときもそんな感じがしたな。

 俺の特異体質がまだ健在なら確実にビリブルってるはず。

 社さんの制服も六芒星に“二”のエンブレム。

 そう二校に転校してった元一校の生徒だ。

 エネミーと同じ高校、もしかしてもう面識があったりするのか?

 いま寄白さんがいれば――今日現在のシシャは六角第二高校の真野エネミーさんでしてよ。と言って俺がまた――時価かよ。ってツッコむ、そんなやりとりをしてただろうな。

 「こんにちは」

 「あっ、こんにちは」

 俺は挨拶を返した。

 やはり緊張する。

 言葉にもこの緊張感がでてるかも。

 「エネミーもう勝手に」

 社さんはまるで親のようにエネミーを注意した。

 やっぱり知り合いか。

 「雛。そんな怒るなアルよ」

 雛とエネミーで呼び合う関係。

 そりゃあ知り合いだよな。

 シシャでありつつ同じ学校なんだから。

 「もう。勝手にいなくなって」

 社さんは、本当に心配してて真顔で眉をひそめてる。

 「ごめんアル。でも雛も友達を見かけたって追いかけたからアルよ。うちは沙田見つけたからさっそくおちょくってたアルよ」

 「それでも私に一言かけてからおちょくりに行ってよ」

 社さん……エネミーの――おちょくってた。という言葉はスルーするのですね。

 俺をおちょくることを暗に認めてる……。

 俺の存在なんてそんなもんさ、ふふ。

 「私たち、クラスメイトなの」

 社さんはそう言ってエネミーを見た。

 身長差がすごい。

 社さんは相変わらずのモデル体型、それに引き換えエネミーといい寄白さんといい……ってエネミーと寄白さんは同じと言っても過言じゃないのか。

 「そうなんだ」

 知り合いどころか同じクラスだった

 能力者とシシャが同じクラスにいるとはね~。

 二校のクラスメイトが知ったらぶっとぶよな。

 六角市民のほとんどはシシャの正体なんて……いや、死者と使者のシステムのことさえ理解してないんだから。

 「さっそくだけど今日は美子の代わりに、私が病院まで案内するわ」

 「えっ、寄白さんはどうしたの?」

 「ドタキャン」

 「なにか理由が?」

 「女子に理由を聞く?」

 「い、いや、ごめんなさい」

 女子の放つ、この詮索すんな感は恐怖だ。

 エネミーが肘で俺をつついてきた、そして俺の顔を見ながらニカっと笑った。

 くうぅ、憎たらしい顔だ、まるで寄白さんのツンツン顔。

 「いえ、まったく聞かなくていいです。では案内お願いいたします」

 このままなら、エネミーにまで変態だと騒がれる。

 いやエネミーはすでにそう思ってるかもしれない。

 ほらまだ俺を半笑いで見てる。

 くぅぅ、ほっぺたを真横にムニってやろうか。

 「さあ、行きましょう」

 「あっ、うん」




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