第126話 フーアーユー?

 寄白さん遅いな。

 待ち合わせ時間がすこし過ぎてた。

 寄白さんがくるはずなのにこない、国立六角病院にいくため待ち合わせなんだけど……。

 バシリスクがきた日、俺は校長に国立六角病院を紹介してもらってた。

 本当はその日に行くはずだった……が、もちろん行けるはずもない。

 九久津を助けた翌日だって気持ちがたかぶって病院には行かなかった、そのまま独りで行く勇気もなく、なんとなくズルズル先延ばしにしてきたが、一週間経ってやっと心構えができた。

 校長に目の状態を話すと――近いうちに行ってみれば。的なニュアンスで軽い受け答えだったってのもある。

 けっしてけっして、ビビったわけじゃない。

 病院がおっかねーってわけじゃ……断じてない……ということにしておこう。

 校長はサージカルヒーラーだし、もし急病ならすぐ・・にという一言がついたはずだ、ということで自己判断で引き伸ばしてしまった。

 寄白さんにも絶賛、引き伸ばされ・・・・・・中!!

 もう、すこしだけ待ってみるか。

 「来週、企業見学だ」

 「社会科見学の?」

 「そう」

 「どこ行くの?」

 「山研やまけん

 俺の後ろで中学生がそんな話をしていった。

 六角駅を利用する誰もが、柱の話をするわけじゃないってことか。

 多数派がいれば、必ず少数派もいる。

 ……社会科見学ってもう、そんな時期か。

 六角市の南には大きな研究所がある、山にある研究所だから通称山研。

 誰が言いだしたのかはわからないけど、俺が小さいころから山研と呼ばれてる。

 市民なら学生のときに見学に行くおなじみの場所で、きっと教育委員会が訪問先を決めてるんだろうと思う。

 外から見るとスゲーでかくてザ・研究所って建物なんだよな。

 ただ外見は窓のない未来的でシャレデザインだったな、って俺があそこに見学に行ったのは小学生のころだっけ。

 「ハーイ!!」

 突然誰かが話しかけてきた。

 俺がすこし視線を落とすと、そこには白いリボンで髪を結った金髪ツインテールの小柄な女の娘がヒョコッとしてた。

 完璧な触覚、大きなくりくりの瞳、澄んだ青い目。

 涙袋の上もうるうると潤んでる。

 海外の女の娘だ。

 いま、初めて会った外国人は見慣れた制服を着てる。

 なんたって六角市の公立高校はみんな同じ制服だから。

 じゃあどこで高校を判断するか、それは胸元にあるエンブレムを見れば早い。

 六芒星のなかに……えっと……“二”という漢数字があった。

 ってことは、六角第二高校の生徒だ。

 しかも見た感じ制服が真新しい、日常生活でつくようなスレがまったくない。

 最近日本にきた娘だろう。

 クールジャパンに憧れた外国人か?

 ……と思ったが、そんな様子はない、謎の漢字Tシャツを着てない。

 日本人が見たら、なんじゃそれってツッコミたくなるあのTシャツ、ってそもそも二高のYシャツにリボンだから、漢字Tシャツを着てるかどうかなんて判断できねーな。

 ま、まさか九久津と入れ替わりの交換留学生か?

 本当に来日してたって結末か?

 「アイムファインセンキュー?! アーユーチェリーボーイ?」

 な、なんだいきなり、チェリーボーイだと?

 俺のこのたたずまいを見ての狼藉ろうぜきか?

 どこをどう見てもふつうの一校の生徒だろう。

 「ノ、ノットチェリー。アンドユー?」

 英語はよくわからんし、否定しておくにこしたことはない。

 この場合アンドユーって言っていいのか?“ あなたは?”って意味だよな。

 けど仕方がない、さきに刀を抜いたのはお主だ。

 ここは日本、日本にきたからには刀で相手をするのが礼儀だ。

 「ホワァット?」

 なに? って言ったよな。けどそんなことは知らん、この隙に逃走だ。

 俺は誰彼だれかれと切るような悪人じゃない、余生は達者たっしゃに暮らすがよい。

 だが俺が右に行くと、右についてくる、左に行くと左についてくる。

 なぜかその娘は俺の行く手を阻んできた。

 まさか海外の絵でも売りつけられるのか、それとも先住民が彫ったとされる超絶技巧の木彫り人形とかでも……売り……つけ……ん?

 なんか不思議な感覚だ。

 デジャブ。

 この行動パターンは前にも……

 「嘘つくなアルよ? チェリーボーイ!! ブレザーのなかを透視するようにジロジロ見てたアル」

 「えっ?」

 いや、いや、いや、いや、ちげーし、あれは漢字Tシャツかどうか見えないかな~って思っただけだし。

 Yシャツなら透けるかな~ってご褒美を期待するけど、ブレザーじゃな~。

 俺はただただ、心のなかだけで反論した。

 「まだ見てるアルな? ボーイスビーチェリー」

 ボ、ボーイズビーチェリーって、なんて語呂のいい。

 けど、“少年・チェリー”って、もはや意味をなしてない、が、童貞変格活用を使ってくるとは、なかなかエキセントリックな娘だ。

 めっちゃくちゃな言葉で異文化コミニュケーションするにもほどがあるぞ。

 「だいたい女子に向かってアンドユーって言うなアル」

 なんか寄白さんの要素が入ってるな。

 というか寄白さんをベースにしてるっぽい娘だな。

 「うちは日本語話せるアルよ。よく聞くアルよ」

 えっ、話せんの? ってさっきからカタコトで話してるか?

 だいぶ言葉遣いがぐちゃぐちゃだけど。

 「……あっ、はい。聞かせていただきます」

 とりあえず話は聞いてあげよう、日本で迷子になっただけかもしれない。

 異国の街でさぞ不安なことだろう。

 二校の制服は偶然手に入れたコスプレということにすれば問題なし!!

 「複アカ禁止。垢BANされた。くし通せ。電凸でんとつやめろ」

 「えっ……」

 な、なんだよ、そのスラング祭り。

 誰だよ、こんな言葉を教えたの?

 せっかく日本にきたのに、もっとあるだろうソレらしい言葉が。

 花鳥風月かちょうふうげつとか百花繚乱ひゃっかりょうらんとか、日本の風情を前面に押しだすような言葉が。

 「そ、それは日本語ではあるけれど、日常で使う言葉とはほど遠いと思いまするでおじゃる」

 俺はきれいな(?)日本語で答えた。

 「じゃあ、おまえが教えるアルね?」

 「な、な、なぜ、僕がターゲットに?」

 「おまえ沙田アルね?」

 「そ、そうですが。アナタはどちらさまで?」

 ど、どうして俺のことを知ってる。

 どこかで会ったことが、いや似てる娘なら知り合いにいるんだよ。

 けどキミじゃない、と思っていたところに、だ。




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