第125話 idol ―偶像―

 

大型商業ビルの巨大ビジョンから、華やかな映像が流れてきた。

 「つづいては大人気アイドルの登場です。このかたたちです!!」

 画面のなかの女子は、それぞれカラーもデザインも違う服装でも、どこか統一感のある衣装を着てた。

 俺の目の前に小さな芸能界があらわれた。

 アイドルというワードでエンターテイメントの世界に引き込まれる。

 学校は日常だけどどこか退屈な日常だから。

 歌を聴くとか映画を観るとか、そういう娯楽のある日常に俺は戻ってきたんだ。

 いや、ふつうみんな日常のなかにいる、大抵はアヤカシなんかと無関係に人生が流れていくんだ。

 まあ、六角市には協力者も大勢いるけど……。

 「ワンシーズンのみなさんで~す」

 「こんにちは~」

 「えっと、こちら下手しもてから」

 司会者は手元の資料を見てて、全員の名前を覚えてないようだった。

 有名な娘ばっかじゃん。

 この四人なら俺でも言える。

 「アイさん。マイさん。ユウさん。ユアさんの四人です」

 コンビニの雑誌売り場でも見かけるし、漫画の巻頭グラビアにもいつも誰かが載ってる。

 CDショップに行けば必ず特設コーナーがあって、等身大パネルが置かれてるくらい人気がある。

 本人役でゲームにも出演したりと、メディミックスも盛んなアイドルだ。

 まあ、九久津は知らないだろうな。

 「私たちがワンシーズンです」

 決めポーズを画面に向けて、四人は笑顔を見せた。

 瞬時に表情を切り替えられるなんてさすがはプロ。

 「えっとワンシーズンのみなさんはレッスン生も含めて、全員で三百六十五人いらっしゃいます。あっ、でもメンバーのひとり、アスさんはいま、活動休止なんでしたよね?」

 司会者が原稿をそのまま読み上げた。

 「はい。もうすこししたら戻ってきますので、ファンのみなさん待っててくださいね~?!」

 画面に手を振ってる……いや画面越しのファンにか。

 誰か休んでるんだ……急病かなんかか?

 けどアスって、知らない娘だ。

 ワンシーズンは、三百六十五人という大所帯のために入れ替わりも激しい。

 本当のファンなら、現在のメンバーから過去のメンバーまで、全員把握してるんだろうけど。

 「こうおっしゃっていますので、ファンのみなさんも待っていてくださいね。さあ、話変わって、現在もペンタゴンがロングヒット中ですが、その理由はなんだと思いますか?」

 ペンタゴンって良い曲だしな。

 バス通のときに聴いてる学生も多い。

 ヘッドホンからもれてくる音で曲名がわかるくらい印象的な曲だ。

 誰が答えるか目くばせしてから、リーダーが小さく手を上げた。

 これはアドリブなのか? それとも初めから答える人が決まってるのか。

 「では、リーダーのミア・・さん。お願いします」

 司会者、名前を間違えたぁ~。

 あとで批判殺到するかも……電凸でんとつ祭りだな。

 「ミアちゃん……? えっと、私はユアです」

 リーダーが困惑して手を振って否定してる。

 この番組ってアドリブ進行なのか?

 「失礼しました。えっと……ユアさん。あれっ、グループにミアさんって……いませんでしたっけ?」

 司会者混乱しすぎだろ。

 まあ、確かにミアとユアって名前は似てるけどさ。

 「メンバー内にミアちゃんはいますよ」

 「……?」

 「私たち、三百六十五人のなかにはいます。でも、そのなかの二十四人が、二十四節気にじゅうしせっきという選抜メンバーになります。そして正式名称ではないのですが、ここにいる四人が四季と呼ばれています。これはファンの皆さまが名づけてくれた愛称です。選抜にならないと、メディアにでることはなかなか難しい世界ですけれど……」

 「シビアですね」

 「それでアスちゃんは二十四節気で……あの、ミアちゃんは……あの、その」

 リーダーが申し訳なさそうにしてる。

 ミアって娘はなににも選ばれたことないのか。

 どう答えていいのか迷うリーダーの悩みが画面から伝わってくる。

 司会者も慌ててるし。

 「あっ、すみません。こちらの不手際です。申し訳ありません」

 ふたたび資料を見る司会者。

 仕事のやりすぎで手が回ってないのか?

 やっぱりは働くってのは大変だな。

 「はい。大丈夫です!!」

 おお。元気な感じでスタジオの空気を変えた。

 リーダーは機転の利く娘のようだ。

 四人がそう言った隙に、司会者はまた手元の紙を見てる。

 「ということはミアさんは二十四節気でも四季でも・・ないってことですね。いろいろとすみません。ミアさん。いつかこの番組にきてくださいね? あと活動休止中のアスさんも、ぜひお越しください。では気を取り直して楽曲について」

 司会者がグダグダになりながらも、画面越しに手をふった、これはその休んでるメンバーにいつか出演してね。というメッセージだろう。

 かなりこんがらがってる。

 それでも四季の四人は、このしっちゃかめっちゃかの場をカバーした、人前に立つだけあってこういう突発的なトラブルにも慣れてるっぽい。

 ……えっと、ミアって娘はワンシーズンにはいるけど、二十四節気にも四季にも選ばれたことがない……んで、アスって娘は二十四節気だけど活動停止中か。

 「ペンタゴンのヒットの理由でしたよね。私は歌詞だと思います」

 「私は曲だと思います」

 「私はドラマとCMの二重タイアップが良かったと思ってます」

 それぞれしゃべりかたや仕草を変え、リーダー以外の三人が順序良く答えてった。

 「なるほど。それではリーダーのユアさん。締めの告知をどうぞ」

 「×月×日。六角市でミニライブを予定しています。みなさんぜひお越しください。ミアちゃんの出身地ですよ~。詳しくはWebをご覧ください。さらにすごいサプライズもありま~す!! なにかって? それは見てのお楽しみで~す!!」

 マジか?! しかもライブ今日だぜ。

 ミアって娘、六角市出身なんだ?

 ぜんぜん知らんかった。

 最近加入したとかなのか。

 アイドルはアイドルで大変そうだ。

 社さんなら、すぐに加入できそうな気が……てかいまなんじだ?




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