第12話 挙動不審

ぐん。人の動く気配がした。

 寄白さんは人体模型の前に滑り込むと、片手をつきその反動で立ち上がった。

 スカートがヒラリと舞う。

 体を反転させて、大きく両足を開き仁王立ちしてる。

 いまのスピードって人間離れしてるよな。

 「おい人の話を聞いてんのか?」

 恐れ知らずに人体模型の行く手を遮った寄白さん。

 怖くないの?

 「うぉぉぉ!! ぶつかるぅぅ?!」

 人体模型は急激にスピードを緩めると、両足でブレーキをかけて止った。

 トップスピードを殺すことには成功したが慣性の法則で内蔵パーツが前方に飛び散った。

 寄白さんの体に樹脂の膵臓や肝臓がパラパラとぶつかる。

 だが寄白さんは冷静だ、顔色ひとつ変えてない、俺はこの闇でも肌の色まで見えてる。

 「やっと止まったか? あんまり私を怒らせるな!!」

 な、人体模型に説教くれてる?!

 ど、どうしてアナタはそんな無謀なことができるのでしょうか?

 不思議っ娘は怖い物知らずか!!

 「すいやせん。お嬢」

 模型が頭を下げると残った内蔵パーツがバラバラと落下した。

 廊下をカランコロンと転がる樹脂の臓器。

 まあ、あれも模型だしな。

 「最近あっしら自分を制御できない事態になってやして。パオォ!!」

 「うるせー言い訳はやめろ。いいから理科室に戻れ!!」

 「そんなにキツく言われると胃が痛むでやんす。あっし意外とストレスに弱いでやんすよ~」

 「へ~ストレスね? ……これはどうだ?」

 寄白さんは足先を左右にグリグリと動かしてる。

 まるでなにかをいたぶるように爪先に力を込めたり緩めたりしてる。

 するとニヤっと口角を上げ不敵な笑みを浮かべた。

 「痛たたたた……えっ?」

 人体模型は胃があったであろう空白の部分をおさえながら、寄白さんの足元をのぞき込んだ。

 俺もつられて寄白さん足元へと目をやった。

 えぇぇぇー!!

 よ、寄白さんが上履きで人体模型の胃を踏んでるぅ?!

 おっかねー!! なんて恐ろしい。

 「いいか? このまま胃痛に加えて胸焼けまで起こしたくなかったら理科室に帰れ?!」

 恫喝する寄白さんは、九久津に――アルコールランプって理科室にあったよな?と訊ねる始末だ。

 「あっ、うん。取ってこようか?」

 九久津はあっけらかんと答える。

 「さあどうする? “戻らねば燃やしてしまおう胸パーツ”」

 寄白さんは語尾を強めた。

 ……な、なんて残酷な、人工的に胸焼けを起こす気だ。

 お、女魔王、女ノブナガだ。

 「ヘイ、あっし、ただいま帰りやす。ヒャォ!!」

 どうでもいいけど人体模型って江戸弁なんだな。

 てか、ここにも理科室があるのか?

 「ヒャヒャヒャ!! なんて早さぁぁ!! まるでなにも身につけてないほどの身軽さぁぁ!!」

 パーツが落ちて軽量化に成功した人体模型は足早に引き返してった。

 出現時よりもスピードは格段に速い。

 それはきっと寄白さんへの恐怖からで、この現状から一刻も早く解放されたいという防衛本能だろう。

 達者で暮らせよ。

 「もう、でてくんなよ?!」

 「ヘイ。承知つかまつりました!!」




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