第119話 禁断の能力者 【オムニポテントヒーラー】 

 

九条は話題を変えたと同時にすこし声のトーンを落とした、そのほうが別の話にスムーズに入れると思ったからだ。

 意識的に表情筋を緩めてから、ちらっと二条に目をやった。

 (文科省の二条ならなにか情報を持ってるはず)

 「あっ?! あの疑惑の医者?」

 二条は、ひとり納得しながらうなずいた。

 九条は――やっぱり。という言葉が口からでる前に押し殺した。

 この一言を発すれば、自分が四仮家に疑惑を持っていることがバレてしまうと考えたからだ。

 疑いが公になれば九久津堂流の死について、さらには九久津の治療の妨げになることを危惧した。

 いまはそれを受け流し黙って二条の話を聞くことを選択する。

 そう心に決めて――なんのこと?と、知らないフリで返事を返す。

 「知らないの……ってあんたまだアメリカにいる頃か。一部当局の人間で話題になったのよ」

 「なにがあったんだよ?」

 「使ったのよ」

 二条はなにかの合図のように手のひらを広げた。

 「なにを?」

 「能力ちから

 そう言ながら宙に手をかざした、そのジェスチャーは、四仮家の能力のことを示していた。

 「能力ちから? どんな」

 「彼の能力はオムニポテントヒーラー」

 「……」

 九条は絶句した。

 二条を凝視したまま黙りつづける。

 九条のなかでまったく予想だにしない返答が二条から返ってきたからだ。

 本来ここで返ってきて良い答えは、九久津堂流に対しての治療経過についてだけだ。

 当局内でも疑惑があるとすれば、それは九久津堂流に対してのことでなければならなかった。

 九条のなかで思い描いていたことと、二条の口からでるはずの答えは「九久津堂流のオペ中に四仮家が不審な動きを見せていた」というセリフでなければいけなかった。

 だが二条がもたらした事実は、四仮家が能力者であり、さらには禁断の能力と呼ばれるオムニポテントヒーラーだということだ、それは想像以上に九条を困惑させた。

 サージカルヒーラー100に対して、オムニポテントヒーラーはヒーラー能力者の0、0001%程度しか存在しない、そもそも能力者自体も地球の総人口の1パーセント未満であり、そのなかにヒーラーと言われる治癒能力者が存在する。

 「かなり動揺してるわね? 医者なら当たり前か」

 「そ、それでどうなったんだ?」

 九条は二条に詰め寄る。

 結論を急かすような九条の圧に二条はおもわずのけ反った。

 「どっちのこと? 患者? それとも四仮家先生?」

 「患者だよ」

 「知らない」

 「どうして?」

 「密室の出来事だったから」

 「なにを言ってるのかわからない。だって能力を使ったって、いま二条が言ったじゃないか?」

 「まあ、順序立てて話すとね。ある日当局に密告があったのよ。四仮家先生がVIPの患者にとある・・・力を使ったって」

 「その、とある力ってのがオムニポテントヒーラーなんだろ?」

 「そう。ただ実際に力を使ったのか使ってないのは当人同士でしかわからないでしょ? あくまで第三者からの通報でしかなかったのよ。私もその話を聞いたのは当局内でだから。それも限られた一部しかその話は知られてない」

 「そんな根も葉もない噂で当局が重い腰を上げるはずないだろ? なにかしらの裏付けがあったはずだ」

 「そう。まさにそこなのよ。密告と同時に差出人不明のある封筒が届いた。消印は六角市」

 「この街から送られた封筒……? 中身は?」




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