第112話 ―NOT FOUND― 消されたデータ

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 九久津堂流 Sterbenステルベン

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 「ステルベンか……できるなら見たくないな」

 九条が一番嫌う単語、いや医療関係者のすべてが避けたい言葉が画面の中央を占領していた。

 医療用語で“死”を意味するその言葉から、すぐに遠ざかるため、九久津堂流のハイパーリンクをクリックする。

 ――カチャ。っとすぐに下層ページに移行した。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 NOT FOUND

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 「はっ?! 中身がない……? 読み込みエラーか? もう一度」

 反射的に指先がマウスボタンを押していた。

 ふたたび同じファイルを読み込む。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 NOT FOUND

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 一度画面が点滅するが同じ結果だった。

 「変わらないか。厚労省内の能力者データベースに“九久津堂流”は存在しているのに中身だけがないなんて……Aランク情報か?」

 頬杖をつく九条。

 指先がクルクルとホイールを転がしている。

 (まさかお役所仕事だからリンクが切れてるとかじゃないよな~? 現実問題、各省庁を横断するデータベースはややこしいからな。……これも【能力者専門校】が実習で使ったやつかもしれないし。……【九久津堂流】のデータは院内には存在しているし厚労省には死亡届けがだされている。手続き的には正しい手順を踏んでるよな。……そのさきでデータが消されてる、ってことはアヤカシ対策局の上層部が消した可能性が高い。だとするとファイルの中身は九久津堂流の死因に付随することではなく、暴かれたくない別のなにかか。たいていは国家機密だけど……)

 九条は、一度天上を仰いだ。

 二、三度、瞬きをして目を休め、ふたたび画面に向かう。

 (まさか?!)

 思考が冷静さを取り戻し、溜息をつく九条。

 (考えたくはないが、九久津くんの言う通りで解析部にミスがあったってことか。解析部のミスならファイルを削除するこの上ない理由になる。ただ厚労省のデータベースに九久津堂流の名前が存在する以上、厚労省からの完全削除を狙ったものではないってとこか。このさきは救偉人の権力ちからがないと調査は難しいな。一条に頼むか、それとも官房長にじかに頼むか? 悩むな)

 九条の手持無沙汰の指は、マウスホイールを上下にスクロールしている。

 (それにまだ誰も気づいてはいないが、九久津くんが【毒回遊症ポイゾナス・ルーティーン】になったってことは毒の原液が必要になるってことだ。だとすると、その原液を、いつ誰がどうやって取りだして九久津くんに渡したのか……? おそらくは医療関係者。だが九久津くん自身に手渡したのは顔見知りだと考えるのが自然。毒を入手するタイミングは九久津堂流がここに運ばれ荼毘だびにふされるまでのあいだか?)

 九条は、デスクに置かれているメモ用紙をちぎった。

 なにかの計算式を書きはじめる。

 二、三分のあとに答えは弾きだされた。

 (いまの九久津くんの病状からざっと計算した結果。初期段階で九久津堂流の血液八百ミリは必要。そこから原液を抽出して、さらに培養し体に貯蓄していけば理論上は現在いまの【毒回遊症ポイゾナス・ルーティーン】には到達する。ただ衆人環視しゅうじんかんしのなかで、八百ミリを採血するなんて果たして可能か?

 周りは医療関係者ばっかりだぞ。そんな不自然な採血を見逃すスタッフがいるかどうか。いや、そんなことはありえない。ただでさえ右脇腹の致命傷で大量出血してるときに血を抜くバカはいない……。仮に臨終後りんじゅうごだったとしても血液の凝固が始まり循環器も停止している。静脈から血を抜くのは不可能。かといって動脈を傷つけるなんてことも無理だ。そいつはいったいどんな方法を使ったんだ?)

 九条はふたたびペンをマウスに持ち替えた。

 (ここまでの情報を結びつけて総合判断するなら解析部のミス。いや九久津くんの言う通り意図的に仕組んだ裏切者がいるとするなら……そいつは国家に従事する人間。しかも医療的知識がある者で、かつデータベースをも編集できる人間。さらには九久津堂流の体内から血液を抜き毒を培養できる者に限られる。……ダメだ。どう考えても、このすべてを満たす人間なんて思いつかない)

 九条の焦燥を表すように、指先はまたホイールをクルクルと転がす。

 (いや、待てよ。ひとりいる。そうだあの人なら?!)




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください