第11話 【七不思議その一 走る人体模型】

 白いリボンでポニーテールに結びなおしてきた寄白さん。

 ブレザーとYシャツの両袖を折り返し、手首をグルリと回して体操をしてる。

 それより、なんて華奢な腕なのか。

 「ふぅ~」

 寄白さんが大きく息を吐いた。

 それは溜息に近くどこかあきれた感じだった。

 「アンタの目も節穴ね? ってまあそう見える仕掛けなんだけどさ」

 「それはどういうこと?」

 なんか落胆されてるし。

 俺は聞き返したが、寄白さんはその言葉が聞こえないとでも言うように、背を向け身構えた。

 うわっ、無視かよ!!

 ――パチン。と廊下に音が抜けると、突然この階の照明がいっせいに消えた。

 LEDは残光がないため瞬間的に明か滅に切り替わる。

 でも不思議と暗闇のなかでもすべての風景がわかるし、色まで鮮明に認識できた。

 確かに闇にまぎれてるはずなのに壁の色も白だとわかる。

 夜の野外で景色を見る感覚だ、でも本当なら色までは認識できないよな~?

 これはなんだろう。

 「九久津くるよ」

 なにかの指示を送った寄白さん。

 「わかってるよ。だから電気を消したんだよ」

 九久津は確かに照明のスイッチを押してた。

 スイッチに触れてる指の本数までがはっきり見えた。

 人差し指、中指、薬指の三本。

 寄白さんは視線を小刻みに揺らして、前方を確認してる。

 なにを見てるんだ頭が右方向で止まった、と同時に揺れるピアス。

 この暗闇であの小さなピアスさえ目視できた、黒い十字架……こんなに見えるなんて、やっぱ異次元空間なのか?

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 すこし離れた場所から謎の奇声が聞こえてきた。

 しだいに鼓膜をつんざくような大音量の叫びに変わる。

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 途端に悪寒がした、さむっ!!

 同時にトリハダが立ち体中がゾワゾワした。

 なんか嫌な感じ。

 あ~なんかヤバいよ、これはヤバいよ絶対。

 俺の目に信じられない光景が。

 それは人体模型が雄叫びを上げながら、大腿筋を交互に振り爆走する姿だった。

 樹脂パーツがパキパキと音を立てて関節がフル駆動してる。

 なななな、なんなんだぁ、この学校は?

 人体模型が走ってるって?!

 百メートル世界記録保持者のように背筋をピシっと伸ばして、腕の振りも理想的な角度だ。

 太ももを限界まで上げた完璧なフォーム。

 あっ、学校の七不思議のひとつって納得してる場合じゃないな。

 この街の不文律を考えたら、ま、まあ人体模型が一体ほど走っても許容範囲……か……?

 いやいや普通は走らない……よ……な。

 六角市民はシシャを家族、つまり家庭単位でかくまうことになってる。

 自分の家の子供として生活の面倒をみる、見た目だってきっと人の形をしてるはずだ。

 シシャが学生にまぎれ込んだ場合、帰宅もその家に戻ることになってて、なんだかんだ、六角市民はこういう怪奇現象を受け入れる心構えができてた。

 俺の目の前を颯爽と横切った人体模型。

 ああ~微風が俺をかすめる、背中がゾワゾワするようなイヤ~な風だ。

 「美子ちゃん。人体模型がホワイトアップしてる?!」

 「まあ、ホワイトアップなら許す。おいテメー廊下は走んな!!」

 よ、寄白さんが人体模型に注意してる?!

 ところでホワイトアップとはなんでしょうか?

 この先、良いことが起こる予感がしない。

 俺はこの現実についていけなかった、謎の専門用語にも。

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 目指せオリンピックぅぅ!!」

 人体模型は疲労の様子も見せずに折り返してきた。

 人間があの速度をキープして走ったなら、相当体力を消耗するだろう。

 だが相手は模型で疲れ知らず、ふたたび完璧なフォームで激走してる。

 鍛え抜かれた体幹で、すこしもフォームを乱さず、ランナーズハイで爽やかに疾走する人体模型。

 人体模型はタスキを繋ぐ走者のように懸命に走ってた、この往路のほうが明らかにスピードが速い。

 「テメー!! 廊下は走るなって言ってんだろ?!」




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