第109話 疑念

 

「これから先の会話はカルテのような書類にはいっさい残しません。すべてはボクの頭のなかに留めておきます。ということで改めて質問させてください。当局が現在キミを問題視している点のひとつめ単独行動の理由」

 「それは誰にも邪魔されず、バシリスクと戦いたかったからです」

 「でしょうね。じゃなきゃ毒を蓄えたりはしないはずです。ちなみに毒の件は医療関係者しか知りませんし当局に言うつもりもありません、安心してください。今後はボクと一緒に治療を頑張りましょう」

 「はい。ありがとうございます」

 九久津は白衣を手で押さえ、すこしだけ重心を傾かせて丁寧に頭を下げた。

 「つぎ二つ目。まあ、ひとつ目の疑問に付随することなのですが、どうしてズレたはずの出現時刻と場所を知りえたのか」

 「最初の発見は偶然です。目に召喚した透過能力でバシリスクを発見しました。これは升教育院長の発言をヒントにしました。そして今回はそれから逆算しました」

 「それは新しい発見ですね。これは将来の役に立つかもしれない事案なので当局へ報告させていただきます」

 「構いませんけど別ルートで升教育委員長からの報告は行ってると思いますけど……」

 「そうですか。ではあとで確かめてみます」

 「あの、ついでですが俺が出現時期のズレを報告するとバシリスクと一対一の対決を邪魔されると思って誰にも言いませんでした」

 「なるほど整合性のある答えです。ちなみに寄白美子さんと、社雛さんがバシリスクの出現を察知したことはどう思いますか?」

 「それは美子ちゃんなら、気圧の変化でアヤカシの出現を予測できますし、そこに透過能力のクレアヴォイアンス、さらに雛ちゃんの、いとを合わせればある程度アヤカシの出現は察知できると思います。ただそれが、どんな種類なのかわからない以上は上に報告することはないと思います」

 ここで九条の動きがピタリと止まった。

 「上に言っても無駄だということですか? まがりなりにも相手は上級アヤカシ、それによって市民を危険に陥れることにもなりかねませんよね?」

 キリっと眉を上げて、すこし強めの質問を返した。

 「まず雛ちゃんは、あの怪我以来、能力の精度が落ちたと美子ちゃんが言ってました。となると雛ちゃんが今回“バシリスクが出現したと”結論づけた決め手はアヤカシの瘴気の強さとバシリスクの体型だと思います。仮に今回出現したアヤカシがミドガルズオルムだったとしても弦での判断では“バシリスクが出現した”という答えになると思います。なぜバシリスクとミドガルズオルムの個体識別の判断を誤らないのかは、すでにミドガルズオルムは退治されているからです。そしてさらに数日後にはバシリスクが六角市にくるという先入観もあります」

 「……教育委員会に進言してもバシリスクの出現時期はまださきの予定。――いま、バシリスクが出現しました。という通報も半信半疑。さらにどんなアヤカシか確定しない以上上層部は動きようがないってことか……」

 九条はコクコクとうなずき自分のなかで処理し――納得です。とつけたした。

 「ええ。そうです。だから逆を言えば、今回は突発的なできごとに対応できなかった、上層部のミスだと思います」

 「じつにロジカルで辛辣しんらつな意見。寄白美子さんと社雛さんの二人は、バシリスクの出現に立ち会ってはいません。反対にキミは待ち伏せのようにピンポイントでバシリスクに鉢合わせた。この状況について説明をお願いします」

 「俺はアイツの出現の日の放課後、一度だけ目目連もくもくれんで位置を確かめました。それを逆算して出向いただけです。それ以降はキャパレベルを考慮して、対決まで能力は使っていません。ズレを報告しなかったのはさっき言った通りです。アイツの進行速度がズレたとすれば、前夜から放課後にかけてのあいだ急激に日本に近づいたんだと思います」

 「なるほど……。今回解析部隊のだした結果がズレたことに疑問を持たなかったんですか?」

 「そこに関しては正直話半分でした。バシリスク案件に限っては」

 「その言い方だとズレたことが当然だとでも言いたげですね。どうして?」

 「どうして?」

 九久津は語尾を強めて、問に問いで返した。

 そのまま目がつりあがるように表情が険しくなる。

 「俺は十年前だって繰さんが情報伝達を間違えたなんて思ってません。繰さんはそれによっていまだに苦しんでる。悪いですけど非があるなら解析部のほうだと思ってます」

 「十年前と言えばキミのお兄さんの……?」




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