第101話 畸形種鋳型(きけいしゅいがた)―キメラタイプ―

 ――ギャァァ!! 産女のすすり泣きはたった一度だけ、断末魔の悲鳴に変わると、上半身と下半身に分断された。

 断層がずれるように左右に体がスライドしていく。

 攻撃態勢のままの九久津は伸びきった腕を返した、それは別の軌道を描いた。

 よほどの動揺だったのか、それは遠いむかし、直したはずの癖。

 そう、堂流になんども言われた”く”の字の太刀筋たちすじだった。

 だが、九久津はかまわずに、そこから縦に一筋、左の斜め下から右斜め上へ、なんども入射角にゅうしゃかくを変え、流れるようにして焔の剣を振るった。

 産女は、その身を、粉微塵こなみじんに切り刻まれると同時に燃え尽きた。

 九久津は最後の一刀いっとうを垂直に振りかざすと、同時に詠唱えいしょうする。

 {{一反もめん}}

 「そのまま、雛ちゃんの血を押さえてくれ?!」

 焔の剣は、ろうそくを吹き消すように瞬間的に解除された。

 一反もめんは自分の尾の高速で揺らすと、一段と加速して、社の元へと向かった。

 頭部に体を押し当てて、その身で止血する一反もめん。

 体はじょじょに染まり、赤いまだらがじわじわと増えていく。

 「くそっ」

 九久津は小走りで社に駆け寄ると、繰に電話をかけた。

 ほんのわずかので、社を一瞥いちべつする。

 刻々と迫る、命の危険水域。

 すぐに電話は繋がった。

 柔和にゅうわな声にほんのすこしだけ、心がほころんだ、九久津。

 繰は誰かの戦闘時には、必ず、電話の前で待機している。

 『九久津くん。どうかした?』

 「繰さん。雛ちゃんがひどい怪我で。どうすればいいですか?」

 『とりあえず落ち着いて。いまの状況を冷静に話して』

 「わかりました」

 『まずは怪我の状態から教えて?』

 「頭から血を流して倒れてる。鈍い音がした。きっと頭を打ってる」

 九久津は、子供がなにかの報告をするように淡々と言った。

 『意識は?』

 「ないと思います」

 『そう。どれくらいの出血量?』

 「そうとうな量だと思います。倒れた状態でも血がブレザーのなかまで流れてるから。いまは一反もめんで押さえてます」

 九久津は社のそばに寄って、しゃがみ片膝をつくと、一反もめん越しに軽く触れた。

 『いい判断ね。ただ、そこから決して動かさないで』

 「わかりました。雛ちゃんの額が真っ黒。きっと魔障だ。いまもだんだんと広がってます」

 『九久津くん、大丈夫よ。国立病院に緊急連絡エマージェンシーコールをしておいたから。いま向かってるのはこんなことが日常茶飯事の魔障専門医。私たちができることは到着を待つこと。いい?』

 「わかりました。俺が他にできることは?」

 『雛の近くにいてあげて。この状況で沈黙はイヤでしょうから、どうしてそうなったのか教えて?』

 「最初に鳥獣ちょうじゅうがた形の姑獲鳥うぶめを倒したんだけど。そのあとにすぐ女形めがた産女うぶめが現れて……」

 『……すぐに女形?』

 「厳密には亜空間内で鳥獣形の姑獲鳥を倒して、亜空間を解除した隙を産女に狙われた」

 言ったあとに九久津はすこしだけ言葉に詰まった。

 「今日は雛ちゃんの様子がおかしくて、俺がかなり前線にいたのが裏目にでたんだ」

 後悔の言葉を絞りだす。

 『九久津くんの目の届かない距離にいたわけじゃないなら、九久津くんのせいじゃないわよ』

 「けど……」

 『それよりも、そのうぶめ・・・はキメラタイプだったんじゃない?』

 「キメラ……。そっか、だから。くそっ!」

 繰は受話器を片手に思案していた。

 繰が、まだ堂流とバディだった頃に一度だけキメラタイプに出会ったことがあった。

 相手は“みずち” という名のアヤカシで、みずち水霊みずちのキメラタイプだった。

 キメラタイプとは、まれに創造される畸形種鋳型きけいしゅいがたのことだ。

 本来、ひとつの鋳型から一種のアヤカシが誕生するのだが、二つの鋳型が連結し二体のアヤカシが産まれることがある。

 ただしこれは、あくまで同音どうおんのアヤカシや、一般的に同一種(それぞれの土地において呼び名が違うなど)とみなされるアヤカシで形成されると考えられていた。

 うぶめに話しを戻すと、本来、うぶめは最初から二種類存在する。

 鳥獣形ちょうじゅうがた姑獲鳥うぶめ女形めがた産女うぶめだ。

 アヤカシの起源にあるように、鋳型は人のイメージにより創造される、だが、同音のアヤカシにおいては鋳型が混在して、今回のようなケースをたどることもあるが、それは万に一つでしかない出現率だ。

 キメラタイプの一番の特徴は連結した鋳型から産まれるために、まったく同じ負力の構成要素になること。

 つまりはキメラタイプのアヤカシは相互間で、同じDNA(構成負力)を持つこととなる。

 「繰さん。いま医者が到着しました」

 『わかった。私もすぐに病院に向かうわ』

 「お願いします」

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