【第四章 ヒポクラテスの誓い】 第123話 六角駅

空がある。なにげない青空が。

 ふとそう思ってからまた目の前の光景に視線を戻した。

 いま俺が見た空は青空。

 “雨の空”は見えてない俺だけの視点。

 最近は慣れてきたせいか、ツヴァイを好きな場所に、出現させることができるようになった。

 近衛さんが驚いてたあの黒い衝撃派も、スポーツ感覚で投げることができるようになった。

 一度自転車に乗れれば、つぎからはスイスイ漕げるアレと同じだ。

 自分の意思で自在にドッペルゲンガーを出現させれればみんなの助けになる、そう思う。

 こんなことを考えてるこの瞬間にも、またどこかの誰かが世界を守っているのかもしれない。

 そう思ったのは、いま六角駅でこの柱を見たからだ。

 近衛さんが操作した、あの“J”と書かれたヤキンだ。

 九久津がバシリスクと戦闘を繰り広げてから今日で一週間。

 四日目に正式なバシリスクの退治判定がでた。

 同時に更新されたWebは各国の関係者を巡った。

 それによって世界中で様々な動きがあった、聞いた話のなかでとくに大きな出来事と言えばヤヌダークがトレーズ・ナイツという、フランス大統領直下の十三部隊に選ばれたことだ。

 たぶんすごい出世なんだろう。

 なんたって十三の部隊のひとつを任されるんだから、救偉人とはまた違う、権力ちからだろう。

 世界は確実に動いてる。

 なにが起こっても世界が止まることはない……と、思ったけど、校長にもらった資料にあった『有史以来、一度もその現象が確認されないグレイグーと呼ばれるカタストロフィーを引き起こす可能性が示唆されている。』ってのが現実に起これば世界がどうなるかわからない。

 話はすこし小さくなるかもしれないけど、九久津はバシリスクからこの街を守った。

 ということは、九久津が世界を守ったと言い換えてもいい気がする。

 ソロモン王の柱にもたれてると、通りすぎる人はみんな面白い話をしてく。

 どれも共通の似た話で、ホットワードってやつだ。

 「この柱って、夜に動くんだって」

 「私も偶然見たよ。柱の前にいたカップルもビビってたし」

 「カップル。災難だね!!」

 「いつだったかで飛び込みあったじゃん?」

 「ああ。あった。あった」

 「その霊だよ。絶対」

 「成仏できてないんだね。きっと」

 俺の横を通りすぎる男三人組もまた同じ話題だ。

 「この前飛び降りした人の呪いだってよ」

 「あ~あのビルの」

 そう言った人がとあるビルを指さした。

 「そうそう。あのビル」

 友達が受け答えした。

 確かに一週間前に飛び降りがあった、あのとき近衛さんも言ってたし。

 一週間前といえば、俺がまさにこの柱で腰痛を悪化させた日で、バシリスクが出現した日。

 「あの夜謎の地鳴りもあったよな?」

 「なんかゴゴゴって地響き聞いたわ」

 「あったあった。不気味だよな~」

 「あれ原因不明らしいぜ」

 「天変地異ってやつ? 地球ヤバくね?」

 「ヤバいよな。ゲリラ豪雨とか」

 「地球滅亡の預言的中すんじゃね?」

 地鳴りってのはきっと九久津がバシリスクにとどめを刺した、あの一撃だ。

 ……こうやって人の勝手な解釈といくつかの出来事が混ざりあって、都市伝説や怪談話が生まれる。

 誰かが意図したわけじゃなく、そこにフッと出現する。

 俺はいままさにその発祥を目の当たりにしてた。

 いまここで、俺だけが、なぜこの柱が動いたのかを知ってる。

 真相を知ってる俺からすれば、ビルからの飛び降りと柱が動いたことはまったく関係ない。

 人の想像力がそれを結びつけた。

 人の想像力はアヤカシをも生みだすすごい力を持ってる。

 良くも悪くも人のイメージはとてつもないものを創りだす。

 無関係な怪談話だって現代であればSNSを通して、一瞬で日本中に広まってしまう。

 むかしなら怪談話は何年も何年もかけてジワジワと根付いていったはずなのに……。

 最近は電子機器を介したホラーも多いし。

 想像がなにかを生みだすスピードが早まった気がする、これはアヤカシが出現すスピードにも影響してるのかもしれない……。

 ただ当局はさきを見越して六角駅前の柱は、ある企画のイベントで動く仕掛けにしいたと広めた。

 いま、株式会社ヨリシロがそのキャンペーンを担ってる。

 六角市観光キャンペーンの一環で市外から観光客を呼び込むためのものだと理由をつけて大々的だいだいてきに宣伝してる真っ最中だ。

 ソロモン王の柱を隠すために打った当局の先手は、意外と効果的で、すこしだけ株が上がったと校長は喜んでた、それでも校長がヨリシロの社長になってから、株価はだだ下がりしたらしく、今回の件で持ち直したのは二割程度だと、また悩みはじめた。

 株価の上がり下がりで一喜一憂するなんて、俺には耐えられない。

 まあ九久津のことや、アヤカシのことでもいっぱいいっぱいになってたけど。

 駅前のなんやかんやも、六角市の大人たちにとっては株式会社ヨリシロのただのサプライズであまり騒ぎは広がってない。

 当局の作戦成功だ。

 反対に子供や学生たちは、企業の仕掛けなんてどうでもよくて、ただ単に怖い話を楽しんでた。

 お化け屋敷に行ってキャーキャー騒ぐのと一緒だ。

 “旧校舎”と聞けば、“幽霊がでる”っていうひとセットのように。

 いまは“六角駅”と“自殺者の呪いで柱が動く”って組み合わせだろう。

 来年の今頃ほとんどの人が忘れてるはずだ。

 ただ世に放たれたこの話が世界から消えることはない、忘れられたとしても、この話自体は残るから。

 俺の目の前を行く人も様々なんだろうな。

 今日を楽しんでる人、辛いことがあった人。

 駅は色んな思いを抱えた人が行き交うって近衛さんが言ってたし。

 この柱もただあるだけでは負力は消せないと。

 使える人が使ってこその道具だ。




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください