【第二章 バシリスクの回帰】 第45話 高鳴りの保健室

 「よ、寄白さん。ちょ、ちょっと待って」

 「いきますわよ?」

 「わ、わかった」

 俺はいま上半身裸でうつ伏せになってる、しかも保健室のベッドに、だ。

 良いのか悪いのか、ぴっしりとカーテンを閉め切った完全密室(?)、そのかたわらには寄白さんが、回転イスの上でちょこんと正座してる。

 長年、華道や茶道という習いごとをしてたかのような、姿勢の正しさだ。

 よく、その面積に正座してられるな……すこしでも動けば回転するだろうに。

 「や、やっぱり、ちょっと待って」

 「男らしくないですわよ?」

 「わ、わかった。腹はくくった」

 このシチュエーションだけを見たら勘違いする人もいるかもしれない。

 うらやましがる人もいるだろう。

 なんせツインテールの妹属性が、俺の背中に直接じかに手を触れてるんだから。

 俺は首を限界まで傾けて、自分の背後に目を向けた。

 寄白さんは左膝を立てると、そこを支点に俺の背中を強く押した、手のひらのほんわかした感触が背に伝わってきた。

 勘違いしないでほしい、これは保健室パンツではない。

 回転イスは、まるで床に固定されたように微動だにしない、それどころか寄白さんと一体化してるようだ。

 寄白さんは大きく振りかぶった右手を、俺の背中すれすれに振り下ろすと、人指し指に全力を注いだ。

 気体のもれる音がして、ストローよりも細い筒状のものから、霧状のなにかが噴霧された。

 「きゃぁぁぁ!!」

 俺は悶えた、かなり激しく。

 先端からは寒い日の吐息のように、白い気体が途切れることなく放出されてる。

 も、もう耐えられないメントールを超えた想定外の冷たさに。

 「なんだこれぇぇぇ?!」

 「トリガーノズルでしてよ」

 「噴出口のタイプじゃな~い?! 中身のほうどぅわぁぁ~!!」

 「え~と。プロパンとn-ブタンとイソブタン。イソペンタンでしてよ」

 寄白さんはこんな俺を横目に、缶を顔の前に持ってくるわけじゃなく、を缶に近づけて一言一句間、間違わぬように印字された文字を読み上げた。

 そのあいだも、もちろん指先はボタンを押したままで完全固定だ。

 「成分を言われてもわかんね~。 ああ腰が寒い。冷たい。沁みるぅ!!」

 俺は腰に手を当て右に左になんども寝返りをうった、服に引火した人が地面を転がるように。

 ……この感じは沸かしそこねた結果、水風呂だったあの感覚に似てる、か、完全にコールドスプレーだ。

 俺のこの身動きでカーテンがオーロラのように揺れた。

 いま、この瞬間、誰かが保健室にきたらあらぬ噂が立つだろう、下手をすればシシャの噂よりもヤバい噂が先行してしまう、となると俺はシシャと変態のダブルライセンスゲット……というわけだ。

 が、学校中に悪名がとどろいてしまう。




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