未完のマリア -通り雨-

未完マリア

 

 雨、雨、雨、いつものように雨が降っている。

 乾いた大地をさらに焦がしていく雨粒あまつぶ

 この雨はそのうち止む、そう、これはただの通り雨なのだから。

 男の体がふわっと浮いた、男、自身にも足の裏が一ミリほど浮いた感覚があった。

 裸足の足が地面に着くか着かないかのときだった、遠くから聞こえてきたのは、いつもの爆発音。

 なんてことはない、これも生活音の一部だ。

 そらを裂く音とともに、いくつかの戦闘機が男の頭上を通りすぎていった。

 耳に残ったのはその音と鼓膜を押す空圧だけだ。

 今日はまだ、雨は止みそうにない。

 傷痍しょういの雨が降るだろう、ここからそう遠くない場所で。

 男は戦闘機が去っていく気配を察し、地上へと歩みを進めた。

 視線の遙かさきで、いくつもの煙が立ち上っているのが見えた。

 雨にたれた人がいるかもしれない。

 おぼろげに思うけれど、とくに心に留める出来事ではない。

 ただ運が悪かっただけ。

 運命だなんだのの話をするなら、この国に産まれたこと自体がハズれなのだ。

 ボロキレに包まれた男の手を引く女。

 それが物心ついたときにある一番鮮明な記憶だ。

 たぶん、あれが母だったのだろうと思う、抱きしめる強さでしか判断はできないけれど。

 女は爆撃に揺れる掘っ建て小屋で、振動のリズムに合わせ腕に力を強めた。

 それでいながら壊れ物を扱うような柔軟性もあった。

庇護ひご、そんな行動原理だったのかもしれない?

 いつしか、その人を見かけることはなくなった、漠然と思った、ああ、死んだのだろうと。

 ここでは、爆弾も銃撃も天気でしかない。

 天気予報の降水確率なんてまったく当てにならない、なぜなら、ここで降る雨は人工雨じんこううなのだから。

 雨に当たるとたいていの人は、いなくなってしまう。

 内戦国での「死」とは、ただの生活習慣病でしかない。

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投稿日:2019年4月9日 更新日: